唇裂鼻の治療 臨床像と手術

唇裂鼻の治療 臨床像と手術

編集 聖マリアンナ医科大学名誉教授 荻野洋一・京都大学教授 西村善彦・東京大学教授 高戸 毅
ISBN 4-7719-0242-9
発行年 2001年
判型 B5
ページ数 366ページ
本体価格 15,000円(税抜き)
電子版 なし


第1章 唇裂鼻を理解するために必要な外鼻,鼻腔,上顎の解剖/1 (村澤章子)
A.外鼻の解剖/1
B.鼻腔の解剖/11
C.唇顎口蓋裂における外鼻,鼻腔,上顎の解剖/13

第2章 片側唇裂初回手術と鼻の形の異常/17
1)乳児期(とくに初回手術時)に外鼻に対して行われてきた術式/17 (江口智明,高戸 毅)
はじめに/17
A.片側唇裂鼻変形の発生におけるメカニズム/18
B.片側唇裂鼻変形の形態と特徴/18
C.唇裂鼻変形の保存的治療法/18
D.唇裂鼻変形の外科的治療法/18
E.考 察/24 まとめ/24

2)初回手術における外鼻修正法「1」/27 (杠 俊介,松尾 清)
はじめに/27
A.術式の目的と考え方/27
B.適応と症例の選択/28
C.術前の準備/29
D.手技のポイント/29
E.術後管理/32
F.症 例/32
G.考 察/33

3)初回手術における外鼻修正法「2」/36 (大宮由香)
はじめに/36
A.術式の目的と考え方/36
B.適応と症例の選択/37
C.術前の準備/38
D.手技のポイント/38
E.術後管理/40
F.症 例/40
G.考 察/41

4)初回手術における外鼻修正法「3」/44 (引地尚子,高戸 毅)
はじめに/44
A.術式の目的と考え方/44
B.適応と症例の選択/45
C.術前の準備/45
D.手技のポイント/45
E.術後管理/46
F.症 例/47
G.考 察/47

5)初回手術における外鼻修正法「4」/50 (大久保文雄)
はじめに/50
A.術式の目的と考え方/50
B.適応と症例の選択/51
C.術前の準備/51
D.手技のポイント/51
E.術後管理/55
F.症 例/56
G.考 察/56

第3章 両側唇裂初回手術と鼻の形の異常/62
1)乳児期(とくに初回手術時)に外鼻に対して行われてきた術式「1」/62 (江口智明,高戸 毅)
はじめに/62
A.両側唇裂鼻変形の発生のメカニズム/62
B.両側唇裂鼻変形の形態と特徴/63
C.唇裂鼻変形の外科的治療法/63
D.考 察/69
まとめ/71

2)乳児期(とくに初回手術時)に外鼻に対して行われてきた術式「2」/73 (井川浩晴,杉原平樹)
はじめに/73
A.術式の目的と考え方/73
B.適応と症例の選択/74
C.術前の準備-術前顎矯正-/74
D.手技のポイント/76
E.術後管理/79
F.症 例/80
G.考 察/80
まとめ/83

3)乳児期(とくに初回手術時)に外鼻に対して行われてきた術式「3」/85 (杠 俊介,松尾 清)
はじめに/85
A.術式の目的と考え方/85
B.適応と症例の選択/87
C.術前の準備/87
D.手技のポイント/87
E.術後管理/89
F.症 例/89
G.考 察/89

第4章 幼少時期における唇裂鼻形成術/93
1)私たちの行ってきた手術法とその意義「1」/93 (米原啓之)
はじめに/93
A.術式の目的と考え方/93
B.適応と症例の選択/94
C.術前の準備/94
D.手技のポイント/94
E.術後管理/98
F.症 例/98
G.考 察/101

2)私たちの行ってきた手術法とその意義「2」/105 (大久保文雄)
A.術式の目的と考え方/105
B.適応と症例の選択/106
C.術前の準備/107
D.手技のポイント/107
E.術後管理/109
F.症 例/110
G.考 察/110

3)私たちの行ってきた手術法とその意義「3」/114 (大宮由香)
はじめに/114
A.術式の目的と考え方/114
B.適応と症例の選択/116
C.術前の準備/116
D.手技のポイント/116
E.術後管理/118
F.症 例/119
G.考 察/121
まとめ/122

第5章 思春期以降における片側唇裂鼻形成術/123
1)私たちの行ってきた手術法とその意義「1」/123 (田嶋定夫,大宮由香)
はじめに/123
A.術式の目的と考え方/123
B.適応と症例の選択/124
C.術前の準備/124
D.手技のポイント/124
E.術後管理/129
F.症 例/130
G.考 察/130

2)私たちの行ってきた手術法とその意義「2」/132 (西村善彦,内藤 浩)
はじめに/132
A.術式の目的と考え方/132
B.適応と症例の選択/133
C.手技のポイント/133
D.術後管理/137
まとめ/137

3)私たちの行ってきた手術法とその意義「3」/139 (荻野洋一,前川二郎,三上太郎)
はじめに/139
A.唇裂鼻とは/139
B.手術時期/143
C.現在主として用いている手術法に至るまでの経緯/143
D.上口唇瘢痕切除と同時に鼻中隔変形の処置を行う場合の手術法/147
E.Transcolumellar skin incisionを用いた場合の術式/152
F.症例(A群)/153
G.症例(B群)/154
まとめ/159

4)私たちの行ってきた手術法とその意義「4」/161 (高戸 毅,綿谷早苗)
はじめに/161
A.術式の目的と考え方/161
B.適応と症例の選択/162
C.術前の準備/162
D.手技のポイント/162
E.術後管理/166
F.症 例/166
G.考 察/169
まとめ/172

5)その他の手術法/175 (前川二郎,荻野洋一)
はじめに/175
A.分 類/175
B.分類「1」の方法/175
C.分類「2」の方法/176
D.分類「3」の方法/176
まとめ/180

第6章 思春期以後における両側唇裂鼻形成術/185
1)私たちの行ってきた手術法とその意義「1」/185 (中北信昭)
はじめに/185
A.術式の目的と考え方/185
B.適応と症例の選択/188
C.術前の準備/188
D.手技のポイント/189
E.術後管理/192
F.症 例/192
G.考 察/194
まとめ/197

2)私たちの行ってきた手術法とその意義「2」/200 (高戸 毅)
はじめに/200
A.術式の目的と考え方/200
B.適応と症例の選択/201
C.術前の準備/201
D.手技のポイント/201
E.術後管理/204
F.症 例/204
G.考 察/205
まとめ/210

第7章 上顎の顎裂に対する骨移植および       外鼻形態との関連性について/213
1)私たちの行ってきた手術法とその意義「1」/213 (今野宗昭,山田 敦)
A.術式の目的と考え方/213
B.適応と症例の選択/213
C.術前の準備/213
D.手技のポイント/214
E.術後管理/218
F.症 例/218
G.考 察/218

2)私たちの行ってきた手術法とその意義「2」/224 (山崎安晴,中北信昭)
はじめに/224
A.術式の目的と考え方/224
B.適応と症例の選択/224
C.術前の準備/225
D.手技のポイント/225
E.術後管理/227
F.症 例/228
G.考 察/229
まとめ/231

第8章 上顎および下顎の骨切り術と外鼻変形について/233
1)私たちの行ってきた手術法とその意義「1」/233 (平野明喜)
はじめに/233
A.唇顎口蓋裂による変形/233
B.術式の目的と考え方/234
C.唇裂患者の骨切り術後鼻変形/235
D.手技のポイント/236
E.考 察/243
まとめ/243

2)私たちの行ってきた手術法とその意義「2」/245 (森 良之,高戸 毅)
はじめに/245
A.術式の目的と考え方/245
B.適応と症例の選択/245
C.術前の準備/246
D.手技のポイント/246
E.術後管理/246
F.症 例/246
G.考 察/247
まとめ/249

索 引/251

口唇裂における口唇形成術は,顎裂あるいは口蓋裂を伴う場合でもこの約40年の間に手術成績が非常に向上し,最近は手術による口唇の創痕がほとんど目立たない状態になりました。

その理由は,手術術式の進歩や術者の努力もありますが,麻酔方法および乳幼児に対する全身管理,さらに治療材料などが以前とは比較にならぬほど改善されたことも大きく寄与していると思います。

しかしその一方で,本書で取り上げた口唇裂に伴う鼻(外鼻および鼻腔内)の変形に対する治療は,乳児期から思春期に至るまで多くの課題があり,術者が希望する治療成績を得ることは決して容易ではありません。

鼻は顔面の中央部分に位置しており,もっとも人の目にふれる部分であるため,乳児期に口唇形成術が行われたあと鼻の形態異常が残っていると,患者さん本人だけでなく家族にとっても精神的に大きな苦痛となります。

本書では,乳児期から思春期に至る種々の問題について取り上げ,現在この課題にもっとも積極的に関わっている方々に執筆をお願いいたしました。それぞれ唇 裂鼻の診断と治療について独自のお考えにもとづく長い経験をお書きくださり,編集者としてそのご努力とご協力に心から感謝しております。

最近は,乳児期の口唇形成術が行われる前から少しでも外鼻形態を改善しようとする種々の努力がなされており,かなりの成果があげられつつあります。

乳児期の口唇形成術の際に,外鼻形態を健常に近づけようとする手術法は,従来数多く発表されており,良い結果が得られたという報告が少なくありません。し かしその一方で,乳児期にあまり外鼻の軟骨およびその周囲組織に手を加えることは術後の瘢痕が軟骨の発育を妨げるので好ましくないという見解も見られま す。これはあくまでもその際の手術内容によって左右されるといえますが,それぞれの考えを尊重して手術は行われるべきでありましょう。

外鼻の形態はその基礎をなす外鼻錐体と土台となっている上顎の状態に大きく左右されます。このことを十分認識した上で外鼻にあらわれている形態異常の改善を図る必要があると思います。

形成外科領域では,わが国はもちろんのこと欧米においてもこの問題についてあまり関心をもってこなかったように思います。患者さん自身は外鼻形態の異常 が,外鼻錐体の変形によって生じていることをほとんど知りません。また,鼻中隔弯曲症や鼻甲介の腫脹による鼻閉症状なども,幼少児期から継続しているため 自覚症状として訴えることはあまり多くなく,外鼻の形態異常がどうしても主訴となります。

唇裂鼻は,土台の一部が欠損し,柱が斜いた状態の家屋にたとえることができます。家屋は当然のことながら屋根が斜めとなり両側の壁面もアンバランスの状態になっています。

このような状態の家を修復するのに屋根の形(鼻でいえば鼻翼)だけをなおしても家屋を十分によい状態になおしたとはいえず,元の異常状態に戻ってしまう恐れがあります。なおここに住む住人(患者さん自身)の居心地は決して良くないと思います。

私はやはり家全体の形態と住心地(機能)の改善は併行して行う必要があると考え,このことを主張し続けてきました。

このような形と機能の改善に加えて,患者さんが幼い時から抱えている精神心理面の負担(spiritual pain)が存在することも忘れてはならないと思っています。特に,恥しさをこらえて来院された患者さんの診察においては,病める人の立場にたった医師の 言葉と態度が求められることを常に心にとめておくことが大切であります。

唇顎口蓋裂の患者さんの治療では,医師,歯科医師をはじめ,言葉の治療や,臨床心理の専門家など多くの方々のお互いの協力や情報の交換は欠かすことができません。

いずれにしても医療の中心にあるのは一人一人の患者さんであります。

患者さんと医師との信頼関係を確立することによって初めて治療の実をあげることができます。それにはまず医師は謙虚な思いをもって患者さんに接することが 大切で,常に同じ目の高さで語りかけspiritualな面の配慮を忘れてはならないと思います。今後私どもが誠実な努力を続けることによって患者さんや ご家族にご満足いただけるさらに良い治療結果が得られるでありましょう。

この書をお読みくださる方々(特に形成外科,耳鼻咽喉科,口腔外科等)が唇顎口蓋裂の患者さんたちの診断と治療に本書を少しでも役立てていただければ幸いであり,さらにこの領域の医学の進歩発展が得られることを期待しております。

2001年10月
荻野 洋一