形成外科におけるBiomaterial

形成外科におけるBiomaterial

著者 北里大学教授 塩谷信幸
ISBN 4-7719-0102-3
発行年 1991年
判型 B5
ページ数 ページ
本体価格 11,000円(税抜き)
電子版 なし


I.Biomaterialの基礎概念と安全評価 桜井靖久 1
A.バイオマテリアルとは 1
B.Biomaterialの備えるべき要件 1
C.生体適合性 3
D.埋植物の機械的性状 5
E.材料の生体内劣化 6
F.材料の生体内劣化のプロセス 8
G.医療用具の安全性試験 9
H.材料に対する生体反応 13

1.全身反応または遠隔部位に起こる反応 13 
2.埋植部位局所における生体反応 15

II.Biomaterialの形成外科領域における実際 添田周吾 17
A.Biomaterialの種類 17

1.形態の改善 19 2.機能の代行 19 3.組織を拡張させる役割 19 4.その他 19

B.組織反応 20

1.材料の毒性,溶出物 20 2.インプラント埋入後の組織反応と被膜形成 20 3.感染 21 4.発癌性 22

C.Biomaterial使用時の心構え 23
D.部位別の応用 24

1.頭蓋・前額部 24 2.眼窩底骨折 25 3.眼瞼の陥凹変形 25 4.耳介形成への利用 26 5.隆鼻術 26 6.頬骨部の陥凹 28 7.おとがい形成 29 8.乳房形成 29 9.その他の利用 32

E.Tissue expander 32
F.注入用物質 34
G.生体活性材料 36

III.プロテーゼとしてのBiomaterial 41
1.合成高分子材料の応用(シリコーン) 秋山太一郎 41
はじめに 41
A.シリコーンの生物学的特性 42

1.シリコーンはリポイド可溶性である 42 
2.シリコーンが生体組織に対して非癒着的であるがゆえに起こる現象 43 
3.シリコーンメッシュ挿入による組織固定の可否 43 
4.シリコーンを癒着性材質に改質する方法 44

B.シリコーンの生体組織との反応 44

1.シリコーンの組織反応 44 
2.シリコーンオイルの生体組織への注入 45 
3.シリコーンゴム状埋入物に対する機械的作用 45

2.生体高分子材料の応用(コラーゲン) 宮田暉夫 46
はじめに 46
A.コラーゲンの構造 47
B.アテロコラーゲン 52
C.コラーゲンと細胞の相互作用 54
D.コラーゲンをbiomaterialに仕立てる技術 62

1.原料の選択と精製法 62 
2.加工成形技術 64 
3.化学的修飾 64 
4.物理的修飾 66

E.形成外科における応用 68

1.皮内注入用コラーゲン 68 
2.人工皮膚 69 
3.その他 70

IV.人工皮膚としてのBiomaterial 75
1.合成高分子材料の応用 黒柳能光 75
はじめに 75
A.創傷被覆材の構造と特性 76
B.新しい創傷被覆材の開発の問題点 77
C.抗菌剤徐放化技術の導入 78
D.抗菌剤含有創傷被覆材 80

1.創傷被覆材の作製 80 
2.創傷被覆材からの抗菌剤放出挙動 80 
3.創傷被覆材の抗菌効果:in vitro実験 81 
4.創傷被覆材の抗菌効果:in vitro実験 82 
5.創傷被覆材の臨床応用 85

おわりに 88

2.生体高分子材料の応用 鈴木茂彦・一色信彦 89

A.コラーゲンを材料とする人工皮膚 89

1.CAS(コラーゲン創傷被覆材) 90 
2.GAG添加コラーゲンとシリコーンの2層構造をもつ人工皮膚 92

B.その他の生体高分子を材料とした人工皮膚 98

1.フィブリン膜 98 
2.ゼラチンを材料としたスプレー式人工皮膚 98
3.キチン膜 98

3.ハイブリッド型人工皮膚 吉里勝利 100
はじめに 100
A.皮膚の構造 100
B.表皮細胞の分離と培養法 102

1.分離法 102 
2.培養法 103

C.線維芽細胞の分離と培養法 103

分離法 103
D.コラーゲンの調整法 104
E.ハイブリッド型人工皮膚 104

1.表皮細胞から作られたtest tube skin 105 
2.Collagen-glycosaminoglycan-silasticシート 105 
3.ゲル型ハイブリッド人工皮膚 105 
4.膜型ハイブリッド人工皮膚 109

F.ヒト細胞の培養条件下での性質の変化 111

V.人工血管としてのBiomaterial 113
1.合成高分子材料の応用 松本博志 113
はじめに 113
A.人工血管に使用される合成高分子の安全性 115
B.人工血管の規格 115

1.人工血管の素材 115 
2.基本構造 119 
3.有孔性 120 
4.標準人工血管の規格品 126

C.人工血管の合成高分子としての問題点 129

1.感染の頻度 129 
2.感染時の死亡率 129 
3.感染発生原因 129 
4.感染の起炎菌 130 
5.感染時の臨床像 130 
6.感染の予防 131 
7.感染の治療 131

D.新しい人工血管への展望 野一色泰晴 132
はじめに 134

A.人工血管開発の流れと生体高分子材料製人工血管 134
B.生体高分子材料製人工血管の素材と処理方法 136
C.生体高分子材料への抗血栓性賦与 137
D.生体高分子材料の架橋方法の改良 138
E.新しい型の細口径人工血管 139

1.材料と方法 139 
2.結果 141 
3.考察 143

F.生体高分子材料製人工血管の将来 144

おわりに 145

VI.人工骨としてのBiomaterial
アパタイト骨補填材について 大西正俊 147
はじめに 147

A.人工骨としてのハイドロオキシアパタイト 147

1.理工学的性質 117 
2.形状 148

B.アパタイト多孔体ブロックの生体適合性についての基礎的実験結果 149

1.成犬頸骨へのアパタイト多孔体ブロックの埋入実験 149 
2.成犬下顎骨欠損部への多孔体ブロックの補填実験 150

C.アパタイト多孔体ブロックの臨床的応用 150
適応目的 150
D.代表症例

1.形態補填機能に対する適応症例 152  
2.構造支持機能に対する適応症例 155

まとめ 157

VII.生体接着剤としてのBiomaterial 中林宣男 159
はじめに 159
A.接着とは? 159
B.軟部組織を対象とした生体用接着剤 160

1.合成ポリマーの利用 160 
2.生体要素の利用(フィプリン糊) 162

C.硬組織を対象とする接着剤 165

1.ボーンセメント 166 
2.歯質への接着剤 166 
3.エナメル質への接着剤 168 
4.象牙質への接着剤 170

D.粘着テープなど 171
索引 173

最近,バイオマテリアルが注目を浴びて,各分野で新素材の開発が盛んに行なわれている。ところで,本文にもあるように,バイオマテリアルに当てはまる適当な日本語はないので,ここでは取り敢ず,“生体に埋め込む物質を材料面から捉えた表現”と考えることにする。その意味では,従来から用いられて来た手術外科縫合糸なども含まれて良い訳だが,近頃は人工心臓,人工肝臓といったような人工臓器そのものではないが,生体のある一部の機能を代行させることを念頭において論ぜられることが多くなった。

したがって,本書でも,バイオマテリアルの一般論に続いて,人工皮膚,人工血管,人工骨など,埋め込まれることで機能を果たすような素材について論じられている。

バイオマテリアルのもっとも重要な資質は一言で言えば,組織との親和性であろう。だが,この言葉自体がはなはだ曖昧であり,通常は皆無とは言えなくても異物反応が最小限に止まることを意味するが,拒絶反応の欠如を指すこともあり,また,ある場合は生体の組織への置換を意味することもある。つまり,このこと自体が今後分析,定義づけを必要とする課題と言える。

かつて,縫合糸のほとんどが絹糸かカットグートの時代があった。どちらも生物材料を用いたバイオマテリアルである。絹糸は比較的異物反応が少ないとされていたが,それでも皮膚の下からしばしば露出し,また皮膚縫合に用いた場合,抜糸が遅れると,傷痕以上に目立つ縫い跡を残すことが多かった。また,カットグートは吸収されるのが特徴であるが,その過程で組織反応を惹起し,けっして望ましい材料とは言えない。

したがって,ナイロン糸や高分子化合物の合成カットグートが出現し,扱いやすく,異物反応がきわめて少ないと分かると,完全に絹糸やカットグートに取って替ることになる。

シリコンは現在,形成外科領域でもっとも人気のあるバイオマテリアルであるが,元来は飛行機の潤滑油であったという。第二次大戦中,大量に生産されたのが,戦後,平和利用へと販路を求め,医療材料として生まれ変わることになる。異物反応が皆無に近いこと,また液状,油性,ゲル状,ゴム状まで,思いどおりの固さに加工できる特徴を生かし,隆鼻術,豊胸術,また人工腱など,形成外科領域で幅広く応用されるようになった。

また,高分子化合物のような合成材料以外に,生物から採取した生物材料の見直しも行なわれている。生体から得た材料は合成材料よりも生体に馴染みやすいはずであるが,現実には自身のものでないと,拒絶反応のため生着しないのが普通である。そのため,抗原性を加工して取り除くことが試みられるようになった。たとえばコラーゲンでは,その鎖の端のテロペプタイドにほとんどの抗原性があるので,それを除いたアテロコラーゲンとして使用するなどその1例である。

このように,これまでのバイオマテリアルは,手元にある材料を取り敢えず生体に試して,良かったら使用を続けようという感じでスタートしたものがほとんどであったが,これからは目的に応じて要求される性状を明確に定義し,それに見合った素材を開発する時代になったと言える。

このような状況に鑑み,この度,本邦斯界の第一人者の方々にご執筆をお願いし,「形成外科手技シリーズ」の中の1冊として本書を編集した次第であるが,幸いにしてそれぞれご力作をご脱稿賜り,ようやく完成に到ることができた。

本書がこの方面に関心を持たれる方々の導きの書として役立ち,さらにバイオマテリアルのさらなる基礎研究・臨床応用の発展・進歩に資するならば,編集者としてこれに勝る喜びはない。

1991年1月初め
塩谷信幸