臨床病理レビュー特集第160号
ゲノム医療の新展開2018-2019

臨床病理レビュー特集第160号

監修 中谷 中
編集 日本遺伝子診療学会、遺伝子診断・検査技術推進フォーラム企画推進委員会
ISBN
発行年 2018年
判型 B5
ページ数 120ページ
本体価格 3,200円(税抜き)
電子版 なし


はじめに(中谷 中)

I.遺伝情報の利活用

1.改正個人情報保護法と倫理指針の改正(吉田雅幸)
Ⅰ.なぜ倫理的な研究が必要なのか
Ⅱ.各国における研究倫理の位置づけ
Ⅲ.医学系研究に関する倫理指針の策定
A.用語の定義の見直し
B.インフォームドコンセントの手続きの見直し
C.匿名加工情報・非識別加工情報の取扱規程の追加
Ⅳ.個人情報保護法の改正
Ⅴ.倫理審査の問題点
Ⅵ.まとめ
2.東北メディカル・メガバンク計画での遺伝情報の個人への返却(回付)の検討経過と実施状況(川目 裕)
Ⅰ.はじめに
A.遺伝情報・ゲノム情報の特徴と医療における課題
B.研究の枠組みでの遺伝情報の返却:研究と臨床のはざま
Ⅱ.個人への遺伝情報回付(返却)のパイロット研究
A.背景
B.研究の枠組みでの個人への遺伝情報回付
C.家族性高コレステロール血症の個人への遺伝情報回付のパイロット研究
おわりに
3.難病の遺伝学的検査とIRUD の取り組み(小崎健次郎・他)
Ⅰ.難病の医療体制と遺伝学的検査をめぐって
A.希少疾患領域について
B.難病と指定難病
C.指定難病・小児慢性特定疾病医療費助成制度と遺伝学的検査
Ⅱ.未診断疾患イニシアチブInitiative on Rare and Undiagnosed Diseases(IRUD)の取り組み
A.未診断疾患とは
B.IRUD 基盤整備と国際連携
Ⅲ.次世代シークエンサーを用いた希少疾患の網羅的な遺伝学的解析の質の保証の問題
おわりに

II.ゲノム医療の臨床実証のために

1.遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度の方向性(吉田玲子)
Ⅰ.遺伝性乳癌卵巣癌の臨床
Ⅱ.日本HBOC コンソーシアムの活動
Ⅲ.日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構とこれからの課題
2.がん診療におけるクリニカルシークエンス:ネットワーク化と人材育成 (西原広史)
はじめに
Ⅰ.ゲノム医療についての政策とネットワーク化
A.検査の品質・精度管理
B.ゲノム医療提供機関の整備
C.人材の教育・育成
D.ゲノム医療について、国民への啓蒙活動の必要性
Ⅱ.がんゲノム医療の実践とネットワーク化、現場教育
おわりに

III.教育セミナー

がんゲノム医療の実践-プロジェクト HOPE 3,000 症例の経験-(山口 建)
Ⅰ.Project HOPE について
Ⅱ.解析方法の概要
Ⅲ.対象症例の内訳
Ⅳ.生殖細胞系列の解析結果
A.生殖細胞系列変異の病的意義
B.薬物代謝酵素の遺伝子多型
C.クローン性造血の存在
V.体細胞系列の解析結果
A.体細胞系列の遺伝子変化(構造変化と発現異常)
Ⅵ.全ゲノム解析の臨床応用
A.プロジェクト HOPE における全ゲノム解析
Ⅶ.体細胞系列の遺伝子変化の全体像
Ⅷ.プロジェクト HOPE の現時点での総括
Ⅸ.今後の展望

IV.企業による取り組み

1.新規シグナル増幅法- PALSAR 法-を用いた遺伝子多項目同時検出技術について(藤川利彦)
はじめに
Ⅰ.PALSAR 法の原理
Ⅱ.PALSAR における核酸検出への応用
A.一塩基変異遺伝子検出
B.発現遺伝子(RNA)の検出
まとめ
2.技術革新を続けるイルミナの次世代シークエンサー (鈴木健介)
Ⅰ.イルミナのシークエンス開発における技術革新
Ⅱ.ヒト全ゲノム解析の課題と取り組み
Ⅲ.今後の開発の方向性
3.AVENIO ctDNA Analysis Kit の強力なパフォーマンスと柔軟性についての詳細な評価(田中政道)
はじめに
A.変異アレル頻度(VAF)
B.感度
C.特異度/ 陽性的中率
D.インプットcfDNA量
E.シークエンシングデータ量
Ⅰ.方  法
Ⅱ.結  果
A.特異度
B.微量のインプットcfDNA
C.シークエンシングデータ量抑制の影響
D.推奨条件でのパフォーマンス
E.低VAF の解析
Ⅲ.結  論
A.すべての変動要因を考慮すべき8
B.パフォーマンスはフレキシブルである
C.アッセイの限界要因がシークエンシングであるか分子生物学的要因かを切り分けるべき

V. ゲノム医療の進展に関わる今後の課題

1.医療者養成(卒前)期における遺伝医学教育の現状(渡邉 淳)
Ⅰ.遺伝医療からゲノム医療へ―医療職のかかわりの変化
Ⅱ.入学前(初等教育、中等教育)における「ヒトの遺伝」教育
Ⅲ.医療者養成期(卒前教育)における遺伝医学教育―モデル・コア・カリキュラムを通して
Ⅳ.医学教育モデル・コア・カリにおける遺伝医学教育
V.これからの医療者養成(卒前)期における遺伝医学教育
2.ゲノム医療の進展とゲノム検査(登 勉)
Ⅰ.ゲノム医療への取り組み
Ⅱ.わが国におけるゲノム医療の進展に関わる課題~がんゲノム医療におけるゲノム検査を中心に~

おわりに(小杉眞司)

参考資料
・ゲノム医療における検体検査の品質確保に関する提言(がんゲノム医療推進を踏まえて):2017 年11 月 日本臨床検査医学会
・次世代シークエンサを用いた網羅的遺伝学検査に関する提言:2017 年11 月18 日 一般社団法人 日本人類遺伝学会
・次世代シークエンサを用いた網羅的遺伝学検査に関する提言:補足資料
・次世代シークエンサー等を用いた遺伝子パネル検査に基づくがん診療ガイダンス( 第1.0 版):2017 年10 月11 日 日本臨床腫瘍
学会・日本癌治療学会・日本癌学会合同
・ゲノム医療における情報伝達プロセスに関する提言―がん遺伝子パネル検査と生殖細胞系列全ゲノム/ 全エクソーム解析について
―【初版】:2018 年3 月21 日 AMED「医療現場でのゲノム情報の適切な開示のための体制整備に関する研究」班  研究開発代表者(
小杉眞司)

はじめに
ゲノムを用いた個別化医療の推進を目的として、日本遺伝子診療学会遺伝子診断・検査技術推進フォーラム公開シンポジウムを最初
に開催したのは2011 年であった。この年は日本がん分子標的治療学会との合同開催であったが、東日本大震災の年でもあり、現在のゲ
ノム医療の激震を予兆させるかのものであった。その後、回を追うごとに人々の注目度が高まってきており、揺れがだんだん大きくな
って、今日に至っている。この数年の経過の中では2013 年内閣官房に「健康・医療戦略室」の設置、2015 年ゲノム医療実現推進協議
会の開催、2017 年がんゲノム医療推進コンソーシアムの設置と急ピッチでゲノム医療の枠組みづくりがなされてきている。そして本年
、がんゲノム中核拠点病院・連携病院といった医療体制の確立とともに、先進医療のもとでのがん遺伝子パネル検査の臨床実装が開始
された。これまで我々がこのシンポジウムの中で将来像として思い描いていたものが現実のものとなり、社会に還元できる時代になっ
てきたものの、臨床検査という視点から現在のがんを含むゲノム医療を眺めると、多くの課題が残されている。
その原因は、現在のがんゲノム医療の推進が行政主導で、検査側・診療側の考え・課題があまり反映されていないためと考えられる。
これまでの経験や議論をふまえると、ゲノム医療の実現のためには産官学がそれぞれの視点や考え方を共有・統合し、協働していくこ
とが重要であり、その中で現在のゲノム医療の流れを止めることなく、良い方向に修正してゆく努力が必要であると考える。このシン
ポジウムは、それぞれが一同に会して議論し、協調するための良い機会となっている。また、本誌がわが国におけるゲノム医療の最新
の情報誌であるとともに、毎年の刊行がゲノム医療の進展の記録としても意義のあるものとなっている。毎年のシンポジウムや本誌の
刊行は終点となるものではなく、さらに継続していくことがゲノム医療の進展に大きく寄与するものと考える。
最後に、シンポジウムでご講演、本誌にご寄稿いただいた先生方、編集に携わった関係者、協賛を頂いた関係各位に感謝するととも
に、更なる発展のために引き続きご助力をいただくようお願いする次第である。
2018(平成30)年10 月30 日
三重大学医学部附属病院 中央検査部 教授
中 谷   中