臨床病理レビュー特集第155号
Reversed CPC 臨床検査による診察作法を身につける 患者さんから学ぶ検査の読み方・考え方

臨床病理レビュー特集第155号

監修 米川 修、松尾収二
編集 森田 薫、有田卓人
ISBN
発行年 2016年
判型 B5
ページ数 238ページ
本体価格 3,700円(税抜き)
電子版 なし


はじめに(米川 修)巻頭
基準範囲(巻頭)
1.胸痛を主訴に来院。70代男性
2.右片麻痺・構音障害にて ICU 入院。70代男性
3.てんかんにて神経内科で経過観察。30代女性
4.検診にて肝障害(高血圧にて通院加療中)。70代男性
5.上腹部痛持続にて消化器内科受診。20代男性
6.乾性咳嗽と労作時の息切れを主訴に来院。60代男性
7.全身倦怠感を主訴に来院。70代男性
8.発熱にて救急外来受診。70代男性
9.発熱、嘔気にて救急外来受診。30代女性
10.呼吸困難、疲労感。70代女性
11.不明熱。30代女性
12.回転性幻暈にて総合診療内科受診。50代女性
13.腎障害にて腎臓内科外来通院中。80代男性
14.心窩部痛を主訴に来院。40代女性
15.肝機能精査目的にて小児科紹介受診、10代女性
16.検診で LD 高値指摘で紹介受診。40代男性
17.健診センター受診時のデータ異常。30代男性
18.意識障害にて救急外来に搬送された。50代男性
19.発熱と倦怠感。80代男性
20.肝機能障害にて紹介受診。40代女性
21.頭痛、食欲不振。20代女性
22.左足の付け根の腫れ。50代女性
23.膝関節の腫脹。30代男性
24.両腕の腫脹、紫斑の疑いで受診。60代男性
25.意識障害、発熱、紫斑を主訴に入院。40代女性
26.感染症の疑い。70代女性
27.全身状態悪化で入院。20代男性
28.発熱、全身倦怠感。20代女性
おわりに(松尾収二)巻末
キーワード(巻末)

今回 Reversed CPC(RCPC)の症例をまとめたものを上梓することになった。筆者(本文中イニシャル Y)が現施設に入職して以来、当院で月に1回のペースで臨床検査部の技師の方々と共に議論し学んだものの中から採択してある。
初診時に基本的検査を依頼してさえおけば、即診断につながるものからデータを丁寧に系統立てて解釈する必要のあるもの、あるいは、基本的な事項を知ってさえいれば容易に結論にたどり着くものなど硬軟取り混ぜたものとなっている。読者は一読すれば直ぐに実感出来ると確信している。いずれにせよ、本来の目的はデータを丁寧に系統立てて解釈することの必要性を学んでいただくことには変わりはない。
聖隷浜松病院は民間の長所を活かした先駆的な取り組みで知られた病院であり、日本経済新聞の「医療の質」評価日本一をはじめ、最近では国際的な認証機関のJCI(Joint Commission International) の数少ない認証施設で再認証されたことからも実績は評価出来る。
当院の評価向上と知名度アップに合わせるかのように臨床研修必修化が導入された。この制度は従来の研修制度を劇的に変え、それに伴い当院にも全国各地から意欲あふれる優秀な研修医が集まり、研修を希望する医学生の見学も激増した。
筆者が驚いたのはやる気も能力もある医学生、研修医を指導してみると、全員と言っていい程がRCPCを実体験していないだけでなく、概念自体も初めて聞くという現実であった。
我々の学生時代には日本醫事新報ジュニア版なる医学生向けの雑誌が無償配布されていた。内容が充実している中でもひときわ毎号欠かさず見ることになったのがReversed C.P.C.(ママ)である。検査データ以外は、主訴と年齢・性別が記載されているだけなのだが、それで診断に迫ろうというものである。データの解釈が素晴らしくいつの間にか正しい病態に導かれているのである。ただただ議論をしている学生が同学年であるのが不思議であった。ラグビーの練習に明け暮れ勉強していなかったとは言え、彼我の違いは何なのか? 怠け者の下した安易な結論は「勉強するいい環境があるに違いない。指導者が優秀なのだ」。今となっては、あながち誤った判断ではない。
では、具体的にどこで勉強が出来るか? 検査部というところに行けばやれそうな気がする。これが筆者とRCPC、ひいては検査室との出会いの端緒となる。
今も手元に大事にしている一冊の書籍がある。日本醫事新報社版「臨床病理の実際―症例を中心とした病態解析―土屋俊夫、河合 忠、河野均也」である。まえがきの一部を引用させていただこう。「われわれは臨床検査の重要性および限界を医学生に理解させるとともに、上記(医師のこと;注)の専門化の傾向の中でともすれば忘れられがちな点をも含めた教育法の1 つとして採用したのがReversed C.P.C.(ママ)である」。総論にはReversed C.P.C.(ママ)の説明がなされている。「Reversed C.P.C.(ママ)では、まず、臨床検査成績のみを提示し、検査データだけから出来るだけ患者の病態を深く掘り下げて考えてみようとするものである。そして、最後に臨床経過と剖検所見を出し、臨床検査データと対比してみるわけである」とされている。本書の症例は剖検までは至っていない。しかし、同じ目的で行われていることを理解していただきたい。更に、土屋ら諸先生は「このような討論の仕方は実際の診療にあたっては邪道なことは確かである。しかし、限られた検査データ、あるいは与えられた検査データだけから最大限の情報を引き出す訓練としては、きわめて有用である」と断言している。然り、である。
現施設に移動になる前、実際の病院で臨床検査医がどう働いているのかを知るべく天理よろづ相談所病院を見学させていただいた。当時は松尾収二先生(本書共同監修者)が高橋浩先生から部長を引き継いだばかりの頃であった。高橋先生は、日本で独自に検査診断学を発展させた柴田進先生の直弟子である。柴田先生達は、CP(clinical pathologist)チェックと称して、異常データをどう解釈するか円卓を囲んで毎朝議論したと伺ったことがある。RCPC の実用版、臨床への実践に他ならないと思えた。
時代は変わり日本臨床病理学会も日本臨床検査医学会と改まった。看板が変わっても検査の重要性は変わることはなく時代とともにその意義は増している。しかしながら、「検査の評価=検査関係者の評価」とはなっていない悲しい現実もある。検査を専門とする者は、医師であれ、検査技師であれ、はたまた学生であれ、検査データから病態をアプローチが出来ることが、まずは必要であると信じている。RCPC は極めて有効な武器となるのである。それを駆使することが臨床医並びに患者に貢献する最善最短の方法の一つのはずである。それが「検査の評価=検査関係者の評価」となる近道と信じたい。
今回の著書が読者諸賢に少しでもお役に立てれば幸甚であり、ご批判・ご教授を歓迎し今後の改善に繋げたい次第である。
平成28 年6 月1 日 監修・編集代表聖隷浜松病院臨床検査科部長米 川 修
本書は雑誌「医療と検査機器・試薬」の許諾のもと改編・転載した。