教えて!うたこ先生 皮膚真菌症マニュアル


監修 比留間政太郎 , 松本忠彦
著者 木村有太子 編著
ISBN 9784771905658
発行年 2022年
判型 B5
ページ数 248ページ
本体価格 8,800円(税抜き)
電子版 なし


外来患者の10~15%が皮膚真菌症と言われる今日においても、本症には教育に時間が割かれておらず診断がつけにくいという現状がある。本書では、検体採取の方法から鏡検のしかた、また実際に培養した時に菌は肉眼や鏡検で「どう見えるのか」アトラスとイラストでわかりやすく紹介、導き出される診断と治療に至るまでを詳述した。各論では疾患ごとに最低限必要な知識を掲載。臨床には必携の、充実した内容が収載された

第1章 皮膚真菌症を理解しよう -概念
第2章 検査ってどうやるの -診断のための真菌学的検査法
第3章 抗真菌薬を使うには -使用する治療薬と使い方
第4章 表在性皮膚真菌を診てみよう -表在性皮膚真菌の臨床
第5章 深在性皮膚真菌症を診てみよう 深在性皮膚真菌症の臨床
第6章 最近のTOPICS,ちょっとだけ

 評者:川島 眞(東京女子医科大学名誉教授)
「プロが直伝、皮膚真菌症診療の現場」
2022年の日本皮膚科学会総会会場の書籍売り場で、医学書には珍しいピンク色の表紙のテキストを見つけた。今一つ人気のない(と言っては失礼だが)皮膚真菌症の本なのに「第2位」の売れ筋と札が立っていた。ちょっと気になって手に取って開いてみると、前期高齢者には優しい大きな文字で書かれていることにまず好感を持った。どうせ無味乾燥でだらだらと続く真菌の分類から始まるのだろうとページをめくると、見開き2ページに「真菌って、なに?」とあるだけである。ますます気に入った。真菌のテキストは退屈な分類から始まり、なかなか先に進まないことが多いが次のページはもう検査法である。なんと実践的な構成であろうか。
そこで、「はじめに」に戻ってみると、著者の木村有太子先生の思いが込められていた。木村先生は美容皮膚科領域でのレーザー治療で有名であるが、実は皮膚真菌症の大御所である比留間政太郎先生、松本忠彦先生の薫陶を受けられた数少ないカビ専門家でもあり、かつ女性医師としては稀有な存在と言える。その先生が、「私が教えていただいた知識を、後輩の先生方にもしっかり残したい」との思いから、「私が教える本」ではなく「橋渡しになれるような本」を目指したとのことである。
その趣旨は第2章「検査ってどうやるの?」に3分の1以上のスペースが割かれていることで明確に表現されている。写真や図を多用して、どこから検体を採取すべきかを患者さんを前にして、比留間先生、松本先生から木村先生が実地に教わっている、その場に居合わせるかのような錯覚に陥るページの連続である。大学で教室員に真菌検査を実地に教えたつもりになっていたが、このような「プロの技」を教えることはできていなかった。
その後、治療薬については必要最小限の解説に留め、ありふれた疾患から稀有な症例まで、3名のプロの豊富な経験例について診断から治療、生活指導にまで、余すところなく解説が加えられている第4章、5章に続いていく。眠くなる間のない見もの、読みものの連続である。
小川秀興順天堂大学理事長の言葉「皮膚科領域の医真菌学の火が絶えることのないように」が添えられている。このマニュアルは次世代の若い皮膚科医に皮膚真菌症の全てを伝える好著であることは間違いないが、実は皮膚真菌学を教える立場の指導者にも隠れたベストセラーになりそうである。私もあと10年、いや20年前に出会いたかった本である。