脂肪注入ハンドブック -基本からCALまで-

著者 辻 直子
ISBN 978-4-7719-0532-0
発行年 2020年
判型 B5
ページ数 160ページ
本体価格 9,400円(税抜き)
電子版 あり
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M2Plus<電子版>

序文ⅳ

Ⅰ 脂肪注入の基礎/辻 直子
1 脂肪吸引・注入の歴史2
1脂肪吸引の始まり:画期的なwet method 2脂肪注入の暗黒時代 3Coleman法の登場による状況変化 4脂肪注入術の再評価 5再生医療によるさらなる進化 6単純なようで奥深い脂肪吸引・注入
2 脂肪注入の基礎理論6
1脂肪組織の構造 2脂肪生着の仕組み
3 脂肪由来幹細胞(ASCs)の働きとその活用9
1幹細胞の働き 2CALの開発 3生着率の向上 4組織の肥沃化 5CALの課題と今後の展望
Column①「再生医療新法」13
Ⅱ 脂肪注入総論/辻 直子
1 適応と患者選択16
1適応疾患 2移植床の評価 3脂肪吸引部の評価
2 術前検査19
3 手術機器20
1カニューレ 2吸引器とデバイスの種類 3スキンプロテクター
4 手術手技(1)脂肪吸引24
1テュメセントと脂肪吸引 2部位別注意点 3脂肪の最適化processing 4脂肪吸引部の術後管理 5脂肪吸引の合併症とその予防
5 手術手技(2)脂肪注入35
1手術機器 2注入手技 3脂肪注入の合併症とその予防
6 CALの設備と手技44
1準備する設備・物品 2手術の手順 3注意点
7 術後管理51
1ドレッシング 2入浴 3運動,仕事 4下着
8 評価54
1形態の改善度 2組織の柔らかさ 3色調の改善度 4嚢胞形成の有無 5脂肪の生着率 63D画像撮影装置と解析ソフト 7CT,MRI
Column②「CPCがなくてもCALは可能」57
Ⅲ 脂肪注入各論
1 顔面への脂肪注入  /青井則之60
A.アンチエイジング60
1はじめに 2治療の特徴と適応 3術前のプランニング 4患者に対する説明 5デザイン 6麻酔 7手術手順 8術後管理 9合併症
代表症例
B.顔面変性疾患および顔面陥凹変形72
1はじめに 2治療の特徴と適応 3術前のプランニング 4患者に対する説明 5デザイン 6麻酔 7手術手順 8術後管理 9合併症
代表症例
2 胸郭変形への脂肪注入/成田圭吾83
1はじめに 2適応 3説明のポイント 4手術手技と注意ポイント 5術後管理 6合併症
代表症例
3 乳房への脂肪注入  /辻 直子93
A.豊胸93
1はじめに 2適応 3説明のポイント 4手術手技と注意ポイント 5術後管理 6合併症
代表症例
B.乳房再建104
はじめに
◇乳房再建(1)乳房温存術後の単純脂肪注入105
1適応 2説明のポイント 3手術手技と注意ポイント 4術後管理 5合併症
代表症例
◇乳房再建(2)乳房切除後のTEとインプラントを併用した脂肪注入118
1適応 2説明のポイント 3手術手技と注意ポイント 4術後管理 5合併症
代表症例
◇乳房再建(3)乳房切除後のTEと複数回脂肪注入による全乳房再建(step lipoinjection)127
1適応 2説明のポイント 3手術手技と注意ポイント 4術後管理 5合併症
代表症例
◇乳房再建(4)乳房再建後の修正140
1適応 2説明のポイント 3手術手技と注意ポイント 4術後管理
代表症例
事項索引146

自家脂肪注入術(以下,脂肪注入)は近年,多くの先生方が興味をもたれている術式となっています。特に乳房再建の分野では,皮弁移植や乳房インプラントに加えて新たな選択肢として挙げられており,脂肪注入による乳房再建に興味をもつ患者も増えてきています。
今後,脂肪注入を行うことにより整容性が向上して患者満足度が上がると期待される反面,不適切な手技で行われた結果,効果が不十分で合併症を併発するなど,不満足な結果を量産してしまう可能性もあります。また,先人が残した数多くの論文にも見られるように,脂肪注入はごく単純なようでいて,実は細かな注意を重ねていかないと良い結果を得られないし,同じようにやっても,うまくいく場合と,そうでない場合があるからです。これは,Coleman法などの注入手技の開発により良好な結果が得られるようにはなりましたが,遊離移植脂肪の生着率自体に根本的な問題があるからです。特に,乳房再建や増大術で比較的大量の脂肪を注入する場合や,放射線照射後など血行の悪い部位に注入する場合には,移植脂肪への血行が悪くなり,注入脂肪の部分壊死,嚢胞形成,線維化,吸収などが起こりやすくなります。これらの脂肪注入の欠点を解消するため,吉村浩太郎東京大学形成外科学講師(現:自治医科大学形成外科教授)は2006年,脂肪幹細胞付加脂肪移植法(cell-assisted lipotransfer,いわゆるCAL法)を開発し,従来の注入法に較べて有意に良好な結果を得たことを報告しました。
セルポートクリニック横浜(以下,当院)は,吉村先生が開発したCAL法を臨床的に拡大応用するため,CAL法を専門に行う高度な美容外科クリニックとして小泉内閣府の医療特区に認められ,2006年7月に開院しました。私は2011年より2019年まで8年間,当院の院長を務め,さまざまな症例で最先端の治療を数多く行うという貴重な経験をさせていただき,その経験の中で,幹細胞を付加して脂肪を注入することで,より結果が向上することを実感できました。
本書は,私が当院で得た経験から,より安全で確実と思われる脂肪注入の方法を余すところなくお伝えすることを目的として作成しました。脂肪吸引と注入手技の詳細を中心に,適応の選択から術後管理まで述べています。また,提示した症例はすべて当院で経験した症例ですが,手技自体としては通常の脂肪吸引・注入でも同じですので,そのまま実践しやすいと思います。
私が脂肪注入全体を通しての基本の考え方として,お伝えしたいことは2つあります。
①常に想像しながら手術をする
②脂肪注入は,移植床の状態,注入手技,注入脂肪の最適化の3条件がそろって初めて良い結果が得られる
脂肪注入術は,吸引の時も注入の時もすべてブラインド手術です。組織の中で実際に何がどのような状態であるのか,すべて想像するしかありません。だからこそ,常に中で起こっていることを想像することが重要だと考えます。また,脂肪注入においては,前述の3条件がとても重要です。特に注入手技はおろそかにせず,労力をかけるべき部分だと考えます。注入脂肪に関しても,幹細胞の付加ができればより良いのですが,できない場合でも基本的な脂肪の取り扱いと注入手技を徹底することで,より満足な結果を得られることが多くなると思います。本書が脂肪注入を行う多くの先生方の参考になれば幸いです。そして今後,脂肪注入術がより改良され,治療全体の質が向上することを願っています。
最後に,本書を執筆するにあたり,当院を支え,ご指導・ご協力いただきましたすべての方に御礼申し上げます。当院の名誉院長であり,これまで数々のご指導をいただきました東京大学名誉教授・杏林大学形成外科特任教授の波利井清紀先生,CALの開発者でありCALの手術をご指導いただいた自治医科大学形成外科の吉村浩太郎教授,当院の歴代の院長の佐藤克二郎先生,淺野裕子先生,岡崎薫先生,現院長である中山玲玲先生,一部執筆をしていただいた青井則之先生,成田圭吾先生,非常勤医師としてご協力くださった大島叔夫先生,栗田昌和先生ほか,当院のスタッフの皆様,㈱バイオマスター・カネカ関係者の皆様,その他関係諸氏の誰一人欠けても,本書は完成できませんでした。
あらためて,ここに深謝の意を表します。

2020年3月
辻 直子
[セルポートクリニック横浜]

脂肪注入ハンドブック
―基本からCALまで―

辻 直子[編著]
■B5判・158頁・定価(本体9,400円+税)
■克誠堂出版,東京,2020年4月

評者:原岡 剛一(神戸大学医学部附属病院美容外科)
エキスパートの,エキスパートによる,エキスパートを目指すためのハンドブック

 2013年にインプラントが保険適用となり,乳房再建の間口は大きく広がった。さらに2020年の遺伝性乳癌卵巣癌症候群への乳房切除の適応拡大により,再建の需要は高まり,インプラントの重要性もますます高まると予想される。インプラントによる乳房再建には,インプラント周囲の段差やデコルテの陥凹などの問題が未解決のまま残されているが,その解決策として注目されているのが脂肪注入である。しかしながら,合併症が多発した歴史から,再建外科では脂肪注入がほとんど行われなかった時期が続き,その手技は一般的ではない。
 そのような状況下での本書の刊行は,まさに時宜を得たものといえるであろう。本書は,脂肪注入の「基礎」「総論」「各論」で構成されている。「基礎」では,脂肪注入の歴史から,脂肪組織の構造,脂肪の生着の仕組み,そしてcell-assisted lipotransfer(CAL)の原理など,脂肪注入を行う医師ならば有しておくべき知識が簡潔にまとめられている。「総論」では,患者の選択と術前検査に始まり,機器の選定,脂肪吸引,脂肪の最適化,注入手技,そして術後管理から術後評価に至るまでの実践的な内容が,まさに本書の帯にある通り「この1冊で始められる」ようにまとめられている。私が脂肪注入を始めたころを思い返せば,瘢痕部位に生じる「凹」を「凸」に修正するだけでも難渋したものである。また,注入する脂肪の厚みに変化をもたせ,理想的な局面に仕上げるコツもわからず,手探り状態だった。が,本章を読めば,それらが引き出しを開けるように簡単に取り出せる。さらに「各論」では,乳房再建や胸郭変形に留まらず,美容外科領域である顔面のアンチエイジングにまで言及している。おのおのの術前の説明ポイント,手技の注意ポイント,術後管理から合併症までが詳細に述べられ,さらには豊富な症例写真と相まって,読者を深い理解へと導いてくれる。
 本書の編著者である辻直子先生は,わが国の脂肪注入のパイオニアであるセルポートクリニック横浜の前院長を務められた,いわば脂肪注入のトップランナーである。辻先生の学術的な功績は周知の通りであるが,市民向けにも活発な啓蒙活動を行っておられ,対象に合わせた臨機応変な対応には感服させられる。その辻先生が「より安全・確実と思われる脂肪注入の方法を『余すところなく』伝えたい」との思いを込められた本書が,読者に高い満足を与えてくれるであろうことは想像に難くない。
 2020年の診療報酬改定では,残念ながら脂肪注入は保険適用とならなかった。とはいえ,今後脂肪注入が形成外科医にとって必須の手技となることは間違いない。これから脂肪注入を始めたいと考える形成外科医はもちろん,脂肪注入をすでにマスターされた美容外科医もぜひ本書を側において,役立てることをお勧めする。