脂肪注入移植術

脂肪注入移植術

編集 浅野裕子、関堂 充
ISBN 978-4-7719-0519-1
発行年 2019年
判型 B5
ページ数 144ページ
本体価格 8,500円(税抜き)
電子版 なし
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執筆者一覧 ⅳ
編集にあたって ⅴ

I 総論
1. 脂肪注入・移植の歴史 2
関堂 充[筑波大学医学医療系形成外科]
2. 脂肪注入移植のための脂肪吸引方法 8
淺野 裕子[亀田総合病院乳腺センター乳房再建外科]
3. 脂肪注入・移植における脂肪精製・処理 14
水野 博司[順天堂大学医学部形成外科学講座]
4. 顔面領域への脂肪注入 22
金子 剛,彦坂 信[国立成育医療研究センター形成外科]
5. 乳房領域への脂肪注入 28
淺野 裕子[亀田総合病院乳腺センター乳房再建外科]
6. 脂肪注入?今後の可能性と課題? 36
吉村浩太郎,朝日林太郎,森 正徳[自治医科大学形成外科]

II 各論  顔面領域への脂肪注入?私の方法?
1. 先天性疾患に対する軟部組織再建 44
坂本 好昭[慶應義塾大学医学部形成外科]
2. 注入法の詳細と症例 52
市田 正成[いちだクリニック]
3. 再建症例から美容症例まで 64
青井 則之[宮益坂クリニック]
4. マイクロファットグラフトと
ナノファットグラフトによる治療 76
渡辺 頼勝[東京警察病院形成外科・美容外科]

III 各論  乳房領域への脂肪注入?私の方法?
1. ブレスト・インプラントを併用した
二期的乳房再建 88
淺野 裕子[亀田総合病院乳腺センター乳房再建外科]
2. 体外式乳房拡張器を併用した脂肪注入による
全乳房再建 100
佐武 利彦[横浜市立大学医学部附属市民総合医療センター形成外科]
3. 脂肪注入を組み合わせた乳房再建法の応用拡大 114
素輪 善弘[京都府立医科大学病院形成外科]

事項索引 133
編者紹介 135

編集にあたって

自分の脂肪を身体の他の部位に移植するという方法は,19世紀末に初めて行われたといわれています。脂肪を塊のまま,または砕いて移植したり,動物の脂肪と混ぜたりと,さまざまな手法が行われてきました。当初は生着のメカニズムも不明で,安定した結果が得られず,標準化した方法が確立するには至りませんでした。その後,1980年代に入って脂肪吸引法が普及するに伴い,吸引した脂肪を乳房に注入する豊胸術について報告されるようになりました。しかし,注入した脂肪の多くは吸収され,脂肪壊死による石灰化や?腫形成などが問題となり,乳房への脂肪注入についての効果が疑問視され,1987年に米国形成外科学会で否定的な見解が出されました。
 筋皮弁移植やマイクロサージャリーが始まって血管吻合などにより大きな組織を安全に移植できるようになると,組織の欠損に対する治療は血管付き遊離組織移植が主流となっていきます。また,顔面の小陥凹の修正などに対しては,コラーゲンやヒアルロン酸などのフィラーを注入する方法が脂肪注入に比べて簡便であることからもてはやされるようになりました。しかし,異物の注入は吸収や異物反応などの合併症が問題になります。
 その後,1997年のColemanの論文が報告されて以降,脂肪注入移植後の長期成績についても数多くの論文が報告されるようになり,自家組織のフィラーとしての有用性から近年再び見直されるようになってきました。また,脂肪注入移植後の生着のメカニズムについての基礎研究も進み,採取脂肪の精製法や注入法の最適化およびデバイスの開発などにより一定の成績を収めるようになりました。
 ここ数年,脂肪注入の臨床応用の報告が欧米を中心に非常に多く見られます。わが国では現在のところ脂肪注入移植の手術は保険収載されていないためか,多くの施設では行われていません。日本形成外科学会と日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会では増加する脂肪注入の要望に応え,再建を目的とした自家脂肪注入に対する適正施行基準を策定し,保険収載を目指して講習会なども行っています。
 本書では,前半は脂肪注入の歴史,基本となる技術,諸外国での臨床応用について「総論」とし,後半は主に顔面領域と乳房領域への臨床応用を「各論」として構成し,脂肪注入移植の臨床経験が多い先生方にご執筆をお願いしました。脂肪注入移植術に関する国内初の成書として,特に各論では基本的な事項から写真とともに詳細に解説していただきました。これから脂肪注入移植を始める先生方,またはすでに臨床で用いている先生方にとって有用な教科書となれば幸いです。
 最後に,ご多忙中にもかかわらず本書のご執筆を快諾していただいた諸先生,出版にあたってご尽力頂いた克誠堂出版の堀江拓氏に深謝いたします。

2019年4月
淺野 裕子,関堂 充

評者:櫻井 裕之(東京女子医科大学形成外科)

注入術という組織移植法

 脂肪注入は,形成外科領域において1つの治療法として確立しつつあります。本書では,その歴史,基礎,臨床が総括的かつ丁寧に記述されており,これから脂肪注入術を始めようとする医師にとっては必読の書です。
 最初の項で,編著者のお一人である関堂先生が触れられていますが,19世紀末から始まった脂肪注入という治療法は,毀誉褒貶の歴史を辿り,紆余曲折をもって現在の方法に到達しています。そして,その過程において2つの大きな要因が働いたと考えられます。1つは,「再生医療」という新しい分野の発展です。脂肪組織としての形態・機能が細胞レベル,分子レベルで解明され,脂肪幹細胞の分離・培養も可能となり,さまざまな液性因子の動体・作用が定かになったことにより,効率の良い脂肪注入の方法が明らかになってきました。近年急速に脂肪注入の臨床応用が進んだ背景には,これらの脂肪組織に関する基礎研究の成果があることは間違いありません。
 もう1つの大きな要因は,脂肪注入を組織移植術の1つの方法として捉えたことです。形成外科診療における注入術は決して新しいものではありません。陥凹部分へのフィラー(ヒアルロン酸,コラーゲンなど)の注入,精製された生理活性物質注入術,細胞導入などはさまざまな適応疾患に対して行われきました。しかし,これらの方法は注入物を単にその場所に留めておく物質,もしくは注入局所で生じる生体反応を期待する治療法であり,組織移植術とは異質なものでした。
 本書に示されている脂肪注入術が画期的なのは,脂肪吸引で得られる各種細胞群を,適正な状態に精製したうえで注入することにより,それらが組織として局所に留まり機能をもって生着する,いわゆる組織移植術である点です。皮膚移植,骨移植,軟骨移植,筋肉移植,筋膜移植,腸管移植,神経移植などさまざまな組織移植にかかわってきた形成外科医であるからこそ,生着率を高めるためのノウハウが蓄積されており,それを脂肪注入に応用することで,組織移植術の1つとしての脂肪注入が確立したのです。対組織量比での接着面積,移植床の血流,注入後の組織形態,局所圧コントロールなどは,まさに生着条件にかかわる重要な因子です。それらを論理的に,かつエビデンスを積み上げて確立してきた脂肪注入移植術が本書に収められています。
 ここから新しい組織移植の形態がどのように発展していくのだろう,そんな夢を与えてくれる1冊でもあります。