臓器移植の麻酔

臓器移植の麻酔

編集 香川県立中央病院副院長 平川方久
ISBN 4-7719-0255-0
発行年 2002年
判型 B5
ページ数 178ページ
本体価格 6,500円(税抜き)
電子版 なし


I.臓器移植と生命倫理,麻酔科医のかかわり…平川方久/1
1.移植医療と生命倫理/1
移植医療への麻酔科医のかかわり/3

II.肺移植/5
A.肺移植患者の術前管理…伊達洋至/5
1.肺移植の適応と検査/5
2.肺移植待機登録/7
3.待機中の患者管理/8
4.移植が決定してから手術室へ入るまで/9
5.生体肺移植患者の術前管理/10

B.肺移植患者の麻酔管理…五藤恵次/12
はじめに/12
1.肺移植と周術期管理/12
2.術前管理/13
3.ドナー管理/13
4.前投薬/14
5.麻酔法/14
6.人工呼吸管理/16
7.循環管理/17
8.人工心肺について/18
9.人工心肺を予定しない肺移植の場合/19
10.生体肺移植の特徴/19
11.移植肺の病態生理/21
12.移植早期グラフト機能不全の発生/21
13.早期グラフト機能不全の対策/22
14.術後管理/23
15.感染対策/24
16.結語/24

C.肺移植患者の術後管理…溝渕知司/26
はじめに/26
1.肺移植術後早期の死亡原因/26
2.移植肺の生理/26
3.術後急性期に起こる合併症と治療/27
4.実際の管理/30
おわりに/36

D.生体肺移植での臓器提供者の管理…森田 潔/38
はじめに/38
1.生体部分肺移植の特徴/38
2.生体肺移植ドナーの検査/39
3.手術計画/39
4.術前の準備/41
5.麻酔・術中管理/42
6.術後管理/42
おわりに/43

III.心移植/45
A.心移植患者の術前管理…中谷武嗣,花谷彰久/45
はじめに/45
1.心移植のレシピエント選択基準/45
2.レシピエント選択における問題点/47
3.適応決定から臓器移植ネットワーク登録まで/47
4.レシピエント管理の問題点/48
5.レシピエント候補の搬送/51
6.わが国での心移植の現状/51 おわりに/52

B.心移植患者の麻酔管理…高内裕司,畔 政和/53
緒言/53
1.レシピエント適応条件と選択基準/53
2.移植前の病態生理と治療/53
3.術前準備と術前管理/54
4.移植前の術中管理(麻酔導入・人工心肺までの管理)/55
5.心臓移植手術の実際/57
6.移植心の特徴(病態生理と薬理)/57
7.移植後の術中管理(人工心肺離脱後の管理)/59
結語/60

C.心移植患者の術後管理…公文啓二/63
はじめに/63
1.心臓移植術後急性期管理にかかわる移植待機中の問題点/63
2.症例/64
3.術後急性期管理/67

IV.肝移植/73
A.肝移植患者の術前準備と術前管理…橋倉泰彦,川崎誠治,寺田 克,池上俊彦,中澤勇一,千須和寿直,浦田浩一,大野康成/73
はじめに/73
1.術前検査/73
2.一般的管理/74
3.栄養管理/74
4.合併症管理/75
5.劇症肝炎症例に対する術前管理/78
6.インフォームドコンセントと精神的サポート/78

B.肝移植患者の麻酔管理…井上泰朗,小田切徹太郎/80
はじめに/80
1.術前評価と前投薬/80
2.麻酔の導入と維持/81
3.麻酔管理上の問題点/82
4.脳死肝移植/85
おわりに/85

C.肝移植患者の術後管理…寺田 克,橋倉泰彦,池上俊彦,中澤勇一,千須和寿直,浦田浩一,大野康成,宮川眞一,川崎誠治/87
はじめに/87
1.集中治療室への入室/87
2.呼吸管理と心肺合併症/87
3.水分電解質管理と糖の投与/88
4.出血と輸血/90
5.術後の肝機能と拒絶反応/90
6.血栓症とその予防/92
7.胆管合併症/93
8.感染症/93
9.腎機能障害/95
10.意識,精神障害/95
11.当科における肝移植の成績/95
おわりに/96

D.生体肝移植での臓器提供者の管理…池上俊彦,川崎誠治/97
はじめに/97
1.術前管理/97
2.術後管理/99
3.信州大学における成績/101
おわりに/102

V.腎移植/103
A.腎移植患者の術前管理…池田みさ子,鈴木英弘/103
はじめに/103
1.慢性腎不全の生理・合併症/105
2.慢性腎不全患者の薬理学/107
3.手術前評価/108

B.腎移植患者の麻酔管理…池田みさ子,鈴木英弘/113
1.手術直前の管理/113
2.麻酔方法/113
3.モニター/114
4.術中管理/114
5.特殊な腎移植例の麻酔管理/119

C.腎移植患者の術後管理…池田みさ子,田辺一成,鈴木英弘/127
1.周術期/127
2.導入期/129
3.維持期/130

D.生体腎移植での臓器提供者の管理…池田みさ子,鈴木英弘/132
1.臓器提供者の条件/132
2.術前管理/132
3.麻酔方法・術中管理/133
4.術後管理/133
おわりに/134

VI.骨髄移植―骨髄提供者の麻酔管理―…滝口 守/135
はじめに/135
1.骨髄バンクドナー/135
2.血縁者の骨髄ドナー/139
3.本人からの骨髄採取/140

VII.脳死者からの臓器提供/141
A.法的脳死判定までの治療管理…菅 貞郎,河瀬 斌/141
はじめに/141
1.脳死と重症脳損傷患者に対する治療/142
2.法的脳死判定にいたる手順/144
3.法的脳死判定までの治療と管理の問題点/145

B.臓器提供までの管理…武田純三/148
1.法的脳死判定に備えて/148
2.ドナー候補者が出たら/149
3.脳死判定作業/150
4.無呼吸テストの実際/151
5.今までの脳死判定上の問題点/152
6.脳死判定後/153
7.家族とのかかわり/153
8.その他の問題点/153

C.臓器摘出中の管理…落合亮一/155
1.臓器摘出術に関連した問題点/155
2.臓器摘出術までに調整すべき点/156
3.臓器摘出術に際して準備すべき点/157
4.臓器摘出術の麻酔管理/158
まとめ/161

索 引/163

わが国では,いわゆる「和田移植」で幕を開けた脳死体からの臓器移植は,30年に及ぶ紆余曲折の末,1997年に「臓器移植に関する法律」が施行され,脳死体からの臓器移植が実施されるようになった。幸いにも脳死体からの臓器移植は,良好な成績を上げ,移植医療は社会的にも認知されてきたと思われる。また,生体からの臓器移植は,従来から実施されていた腎,骨髄,角膜などの移植に加えて,肝臓,肺の移植も実施されるようになった。とくに,脳死体からの臓器提供が多くは望めないという現実から,生体臓器移植は今後さらに増加するものと予想されている。

現在,臓器移植を実施できる施設は限られているため,移植医療に直接的に携わる麻酔科は決して多いとはいえず,通常の麻酔科医療として確立されたものはない。しかし,生体肝移植,骨髄移植,腎移植などでは,すでに通常の医療として日常的に行われており,近い将来には移植医療はより一般的なものとなってくると思われる。一方,麻酔科医は,脳死体からの臓器移植を実施する際の脳死判定,脳死体の管理を避けて通ることができない。脳死からの臓器提供者は,まだ少数ではあるが,麻酔科医が勤務する多くの施設では,脳死からの臓器提供という事態に直面することが起こりうる。

編者は,前任施設である岡山大学医学部附属病院での生体からの肺移植,肝移植にかかわった経験から,このような時期に,臓器移植に関与したことがない多くの麻酔科医が,臓器移植の麻酔に関する知識を整理しておくことは重要であると考え,本書を企画した。本書の執筆には,麻酔科医が直接かかわらざるを得ない臓器の移植および脳死判定と脳死体の管理について,移植医療を実際に経験された方々にお願いした。とくに,臓器移植の麻酔管理にあたっては,レシピエントの病態の把握と術前管理は重要であることから移植外科からの執筆をお願いするとともに,術後の管理についても記載し,狭い意味での麻酔管理にとどまらないように配慮したつもりである。また,生体からの臓器移植の宿命として,健康な人からの臓器摘出という問題がある。臓器提供者が手術後早期に社会復帰できるよう慎重かつ的確な対応をする必要がある。本書ではこの点も取り上げ,各臓器の摘出に際しての麻酔管理についても記載した。

本書は,いわゆる教科書的な編集ではなく,記述が重複しているという欠点はあるが,それぞれの項目ごとに独立した記述をしている。したがって,知りたい臓器移植について通読すれば,レシピエントの病態,術前管理から術後の免疫抑制剤の使用までを知ることができるし,病態,麻酔などそれぞれの項目だけを見ても一応の全体像がつかめるようにした。また,脳死判定,脳死体の管理についても,臨床医としての立場から,自分がその立場に立った時にすぐに役立つことを目的にしている。また,本書の内容は,執筆された方の施設での経験に基づいたものであり,記載内容に統一性が欠ける部分もある。移植医療,とくに脳死体からの臓器移植は,まだその緒についたばかりであり,今後,症例を重ねるにつれて統一的な見解も生まれてくるものと思われる。本書は,前述したように,臓器移植の麻酔を経験したことがない麻酔科医を対象としている。現段階では,本書に記載されているような管理が行われていることを理解して頂ければ,本書の目的は達成されるのではないかと考えている。

本書の出版にあたっては,執筆をお願いした各先生方には,深甚なる謝意を表するとともに多大のご迷惑をお掛けしましたことをお詫び申し上げます。また,

本書を通じて,より多くの麻酔科医が臓器移植の麻酔に関する知識を深め,今後の移植医療の発展に少しでも役立つことができれば,望外の幸せである。

編者 平川方久