二重投稿・二重出版は研究不正

二重投稿・二重出版(それぞれ「多重」と表記されることも)は、業績の嵩増しや出版リソースの浪費につながること、さらにはメタアナリシスに不適切な影響を与えるおそれもあることなどから、研究不正ないしそれに準じる行為とみなされることがあります。
では、二重投稿・二重出版とは、具体的にはどのような行為を指すのでしょうか? 類似の行為とされるサラミ出版もあわせて、以下にまとめます。

二重投稿 ある雑誌に投稿した原稿を、その採否が決まらないうちに、他誌に投稿すること
二重出版 すでに掲載済み(または予定)の論文と本質的に内容の同じ論文をくり返し出版すること。
サラミ出版 1つの研究として発表可能な成果を、多数の小さな研究に分割し、出版される論文の数を水増しすること。

ただし、次のような原稿の場合には二重投稿・二重出版とは一般的にみなされません。

・他誌に投稿していたが、結果がリジェクトとなった原稿
・(学会発表などで作成した抄録やポスターなどの予備的報告や、研究の記録集などに掲載された不完全な報告を、最終報告としてまとめ直した原稿)(注1)

加えて、二重出版であっても、次の要件を満たす場合にはそれが認められるとされています(この場合には「二次出版」の扱いとなります)。ガイドラインや緊急性が高い報告など広く周知されるべきもので、出版社の許諾を得たもの、と考えるとよさそうです。

・著者が双方の編集者〔および発行元(注2)〕から許可を得ている。
・初版の優先権を尊重するため、双方の編集者が取り決めた期間を過ぎている(特に取り決めがない場合は、通常1週間の猶予を設ける)。
・異なる読者層(特に、国、言語、学問領域などが異なる)を対象としている。
・初版のデータと解釈を忠実に反映している。
・二次出版では、その論文の全体または一部が、過去に発表済みであることを告知し、初版の論文を引用・参考文献として挙げる。
・タイトルに二次出版であること(「翻訳版」「抄訳版」など)を記載する。

もし、ご自身の論文が二重投稿・二重出版になるかもしれないと不安になったときには、担当の編集スタッフまでご相談ください。

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どうして二重投稿・二重出版は研究不正とされるの?

実は、二重投稿・二重出版が研究不正と考えられるようになったのは、わりと最近のことです。19世紀以前には、自分の研究成果ができるだけ多くの人の目に触れられるよう、複数の雑誌に論文を発表するのは当たり前の行為でした。しかし20世紀後半になると、情報流通技術の進歩により論文にアクセスしやすくなり、その一方で学術出版のコストが増加したことから、同じ内容の論文をいくつも出版するような行為は避けるべきと考えられるようになってきました。
米国科学技術政策局(OSTP)による2000年の定義でも、「捏造(fabrication)」「改竄(falsification)」「盗用(plagiarism)」(総称して「FFP」)が研究不正行為であるとされており、二重投稿・二重出版は含まれていません。
本質的にも、FFPと二重投稿・二重出版は、異なるものと考えられています。前者が科学への信頼を致命的に傷つける本来的な不正であるのに対し、後者は出版社のリソースはみなで共有しているものと考えて自粛すべきであろうという、いわばマナーとして定着してきたもののようです。そのため、実際に二重投稿・二重出版を行う者がいたとしても、具体的な制裁措置が乏しいという現状もあるようです。
いずれにせよ、二重投稿・二重出版が、研究者として望ましくない行為とみなされつつあることに変わりはありません。それをすることによって、雑誌の紙面が余計に使われ、他の研究成果が出版される機会を奪ってしまうことになります。それは学術全体の停滞を招きかねません。また、著作権や出版権の侵害となるおそれもありますので、不安な場合にはかならず編集スタッフに問い合わせることが必要です。

さらに研究者と出版社の関わりを考える

上記のとおり、二重投稿・二重出版は最近になって研究不正またはそれに準じる行為とみなされるようになりました。そして、その背景の一つには、出版リソース・コストの問題がありました。この点について、もう少し考えてみたいと思います。
近年、出版コストの増大と、それに伴って生じた書籍価格の高騰が、大きな問題として認識されつつあります。もしかすると、「大学や病院の図書館で雑誌の定期購読ができない」という話を耳に挟んだことのある先生もいらっしゃるかもしれません。
流通通信技術の飛躍的な向上によって、読者はいつでもどこでも安価に論文を検索・購読することができるようになりました。しかしその一方で、そのデータを製作・配信するコストは膨大なものとなりつつあります。論文1本あたりの製作費用は、平均で3,000~4,000ドルともいわれ、欧米の出版社は機関向けの雑誌の価格を上げることでその回収を行ってきました。この欧米式のビジネスモデルは、読者の利点が大きかったために数十年にわたって受け入れられてきましたが、図書館からの悲鳴が上がっているということは、そろそろ立ち行かなくなってきたということかもしれません。
このような時代になって、出版リソースをどのように使っているのか、研究者個人も意識するよう求められ始めたとも考えられます。
今回のテーマである二重投稿・二重出版であれば、出版社や読者に数千ドル分の負担をかける行為である、と捉えることができそうです。あるいは、同じ考えをさらに発展させれば、すでにリジェクトになった論文をさほど修正しないまま同じ雑誌に投稿し直す行為なども、いずれ研究不正と認識されるかもしれないと予想できます(一般文芸ではすでにマナー違反とされていることがあります)。

出版コストへの意識だけでなく、出版の形態が年々変わっていることについても注意が必要です。
たとえば、2017年12月時点のICMJEの勧告では、学会発表などで作成した抄録やポスターのような予備的報告や会議記録集(proceedings)は論文として扱っておらず、よって、それらを最終報告にまとめ直して出版することが認められています。しかしながら、これら抄録やproceedingsもその段階で雑誌の特集号などに掲載されるケースが増えてきており、それらを専門に扱う雑誌まで登場したため、論文と同じように高い価値があるとみなす風潮もあります。
したがって、将来的には二重出版と同様とみなされ、これらを最終報告として論文にまとめ直す行為も控えるべきものになるかもしれません。

倫理は時代や社会の影響を受けて変化し得るものです。二重投稿・二重出版はその好例といえるでしょう。
いらぬ疑いがかけられないためにも、出版の動向やルールには、常日頃からアンテナを張っておくことが肝要と思われます。

▼注
注1:後述するように、学会発表等の予備的報告や会議録についても、近年では雑誌に掲載され、また参考文献として引用されるケースも増えてきています。今後扱いが変わる可能性もあると考え、括弧付きとしました。
注2:ICMJEのガイドラインでは、発行元からの許可にまでは言及されていません。しかしながら、後々に権利関係のトラブルに巻き込まれないためにも、事前に発行元に問い合わせを行うものと覚えておいたほうがよいでしょう。

▼参考文献
1)山崎茂明.科学者の不正行為:捏造・偽造・盗用.東京:丸善出版,2002.
2)International Committee of Medical Journal Editors.ICMJE統一投稿規定(2017年改訂版,翻訳版).翻訳センターホームページより.URL:https://www.honyakucenter.jp/usefulinfo/uniform_requirements2018.html(2018年11月22日最終閲覧)
3)日本医学会日本医学雑誌編集者会議.日本医学会医学雑誌編集ガイドライン.2015.日本医学会ホームページより.URL:http://jams.med.or.jp/guideline/jamje_201503.pdf(2018年11月22日最終閲覧)
4)研究者の公正な研究活動の確保に関する調査検討委員会報告書.東北大学ホームページより.URL:https://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/press20120124_01_1.pdf
5) 有田正規.学会誌をどう出版するか.情報管理59(9);2016:377-83.

作成日:2018年11月22日
公開日:2019年4月26日