たこつぼ症候群:これまでの歩みと未来へのメッセージ


編集 土橋和文、上嶋健治
ISBN 978-4-7719-0540-5
発行年 2021年
判型 B5
ページ数 242ページ
本体価格 8,000円(税抜き)
電子版 あり

M2Plus<電子版>

「たこつぼ(takotsubo)」は、そのまま世界に通じる有名な心筋症となった。その名を広めた土橋・上嶋による総決算。日本発信の本疾患のこれまでとこれからとは?

序文 土師 一夫 iv

I はじめに 土橋 和文、上嶋 健治 1

II たこつぼ症候群の成り立ちについて 6
   ①広島での経緯─石原 正治 6
   ②わが国での経緯─大和 眞史 12
   ③論文発表からみた本邦および欧米での経緯─土橋 和文 16
   ④その後のたこつぼ症候群─明石 嘉浩 21

III 診断基準と成因について 31
   ①たこつぼ症候群の臨床像と診断基準の現状─桐ケ谷 英邦、木村 一雄 31
   ②たこつぼ症候群の成因と病理所見─宮崎 俊一 41
   ③たこつぼ症候群と冠動脈疾患─富島 佳之、真玉 英生、安田 聡 49
   ④たこつぼ心筋症と心筋症分類─湯田 聡 54
   ⑤災害関連疾患としてのたこつぼ症候群─澤村 匡史、中尾 浩一 58
   ⑥麻酔関連疾患としてのたこつぼ症候群─新山 幸俊 67
   ⑦脳心連関としてのたこつぼ症候群─永井 道明、Carola Y Förster、苅尾 七臣、土手 慶五 73

IV 重要な病態ないし例外的事象について 87
   ①誘因ないし背景─古島 知樹、真玉 英生、安田 聡 87
   ②左室心尖部膨隆の成因と意義─土橋 和文 93
   ③合併不整脈と心臓突然死─西川 諒 101
   ④「逆たこつぼ」病態と再発例の壁運動異常─西田 絢一 107
   ⑤心腔内圧較差─土橋 和文 115
   ⑥右室障害と血栓・破裂について─吉岡 拓司 124

V 診断手段と方法について 130
   ①症候・診断経緯と血液検査、バイオマーカー─土橋 和文 130
   ②心電図診断─小菅 雅美 134
   ③核医学検査─橋本 暁佳 148
   ④ MRI など─永野 伸卓 155

VI 鑑別すべき病態について 161
   ①冠動脈疾患─新井 真理奈、真玉 英生、安田 聡 161
   ②炎症性心筋疾患とその他の心筋症─矢野 俊之、神津 英至 169
   ③神経疾患に合併するたこつぼ症候群と心筋気絶─三上 毅、三國 信啓 176
   ④褐色細胞腫クライシスと心筋疾患─能仁 信一、葭山 稔 181
   ⑤精神疾患およびストレスとたこつぼ症候群─出利葉 健太、 鵜飼 渉、 橋本 恵理、 河西 千秋 187

VII 治療法について─國分 宣明 192

VIII 予後と再発について 197
   ①院外心停止とたこつぼ症候群の急性期予後─伊藤 賀敏、桃原 哲也 197
   ②急性期増悪とリスク層別化─加藤 賢、小林 欣夫 206
   ③慢性期再発と予後─加藤 賢、小林 欣夫 211

IX 臨床研究としての症例集積と疾患概念形成の課題:先行研究との比較から─上嶋 健治 217

X おわりに:若き循環器医へのメッセージ─泉 知里 224

   巻末付録.編者選「たこつぼ症候群および類縁疾患論文100 編」 230
   索引 240

コラム
1 佐藤先生の初報を読んでみよう 10
2 たこつぼ症候群の診断名の変遷 20
3 happy heart syndrome 30
4 診断基準は百花繚乱:混乱期 40
5 なぜ、高齢女性なのか? 48
6 エルサレムへのミサイル攻撃 66
7 疾患関連のたこつぼ症候群 72
8 たこつぼ症候群の発症に好発時間帯はあるか? 86
9 元祖七情から「喜怒憂思悲驚恐」:broken heart からhappy heart まで 92
10 たこつぼ症候群の動物実験(ラット・不動ストレス)モデル 100
11 複数タイプの壁運動異常を示した褐色細胞腫 113
12 冠攣縮とたこつぼ症候群の背景要因(未発表データ) 168
13 出血性脳卒中での急性期心電図変化 180
14 カテコラミン採血の工夫と意義 185
15 たこつぼ症候群の経過と悪性腫瘍など生命予後不良疾患合併 216

この度、札幌医科大学の土橋和文教授と京都大学の上嶋健治教授の企画編集による『たこつぼ症候群:これまでの歩みと未来へのメッセージ』が上梓される運びとなった。
急性心筋梗塞症に対する再灌流療法が導入された1980 年代、日本では血栓溶解療法は冠注法が主流で、循環器専門施設では入院直後に冠動脈造影が施行される頻度が高く、高率に梗塞部灌流冠動脈の血栓性閉塞が検出された。しかし、中には冠動脈に狭窄病変がなく、左室造影で心尖部が無収縮の例が散見された。退院前の左室造影では収縮異常は消失しており、病態に疑問を感じながらも急性心筋梗塞症と診断せざるを得なかった経験がある。当時、東京女子医科大学附属日本心臓血圧研究所内科で私と同期の前獨協医科大学教授の金子昇先生が急性心筋梗塞症の発症機序として、動的細胞死(kinetic cell death)を提唱されていた。しかし、上記の症例群は典型的な急性心筋梗塞症に比べて心筋逸脱酵素の上昇度が低く、約2 週後に収縮能が回復することから、細胞死はわずかで主体は細胞仮死(stunning)と思われた。
1987 年に大阪大学の井上通敏先生が代表幹事で、私も幹事を務めていた六甲カルディアックセミナーで、広島市民病院の佐藤光先生が同様の3 症例を発表された。左室造影像を初めて「たこつぼ型」と表現され、多枝攣縮に起因する気絶心筋説を提唱された。
1990 年に本セミナーでの興味深い報告を中心に書籍化された『臨床からみた心筋細胞障害:虚血から心不全まで』が発刊され、佐藤先生の論文も収載された。邦文にもかかわらず、現在でも海外の多くの論文に引用されているが、急性心筋梗塞症と類似の初期像を示しながら冠動脈病変がなく、冠動脈の灌流域を逸脱した特異な左室形態に着目し、急性心筋梗塞症とは異なる疾患との見解を発表した慧眼に日本人として誇らしい思いである。
Eur Heart J 誌の編集長Luscher TF は2016 年にたこつぼ症候群の特集頁で「Takotsubo: a Japanese contribution to cardiology」というタイトルの巻頭言を寄稿し、日本人循環器内科医への敬意を表明したが、日本人の引用論文は佐藤先生だけであった。
たこつぼ症候群は単施設では症例数が少なく、病態の理解には多施設での集積が必要との見解から、狭心症・心筋梗塞症研究会(現AP・MI 研究会)の会員施設から集積された88 例をまとめた報告が2001 年にJ Am Coll Cardiol 誌に掲載された。その後の約20 年間で、本症候群に対する関心が世界的に高まり、関連論文の発表数も飛躍的に増大した。1998 年からスイスを中心にしたInterTAK 登録、ドイツ・イタリア合同のGEIST 登録、スペインのRETAKO 登録などの国際登録が開始されている。昨年には欧州心臓病学会から国際有識者合議文書も発表された。本症候群の診断基準はMayo Clinic の基準や欧州心臓病学会の基準が採用されている。日本ではTokyo CCU ネットワーク集積分析が報告されているが、たこつぼ症候群に限定した全国的な登録や大規模な集積解析調査がなく、本症候群は日本発信の疾患にもかかわらず、研究の主体は欧米であり、いささか残念である。本書によって、たこつぼ症候群への関心が一層高まり、全国規模の調査によって日本のエビデンスが発信されることを期待したい。

土師 一夫
市立柏原病院循環器内科