救急集中治療部ケースファイルズ

救急集中治療部ケースファイルズ

編集 今井孝祐
ISBN 978-4-7719-0310-4
発行年 2006年
判型 B5
ページ数 212ページ
本体価格 4,800円(税抜き)
電子版 あり

M2Plus<電子版>

1 23歳の男性 食後に突然の全身の掻痒感と息苦しさが出現
2 50歳の女性 喉が痛くてつばも飲み込めず涎がでてしまう
3 70歳の男性 ダンス教室中に突然に座り込み返事をしなくなった
4 80歳の男性 自宅で転倒後右下肢痛,意識も徐々に低下してきた
5 54歳の男性 会社内で歩き回り,話しかけにも応答しない
6 88歳の女性 転倒して左眼瞼部・左手首を打撲し疼痛が強い
7 57歳の男性 突然の強い右側腹部痛と嘔吐,下痢がある
8 28歳の女性 勤務中に立ちくらみを訴え,うつろな表情,返事をしない
9 57歳の男性 会議中にろれつがまわらなくなり発汗顕著である
10 64歳の女性 呼びかけに応答できず嘔吐している
11 19歳の女性 大量の薬物を内服したと通報してきた
12 55歳の男性 意識消失発作と息苦しさを訴える
13 22歳の女性 突然に意識消失発作が起きた
14 73歳の女性 階段から10段ほど転落して背部痛が強く動けない
15 46歳の男性 勤務中に机上にうつぶせていびきをかいている
16 80歳の男性 動作時息苦しい
17 64歳の男性 突然に意識消失,倒れた
18 33歳の男性 突然に胸が痛くなって歩けなくなった
19 32歳の男性 息が苦しくてよくならない
20 80歳の男性 身の置き所がないほど背中が痛い
21 23歳の男性 今朝からおなかが痛く吐いてしまう

救急部での診療は救急隊(もしくは患者家族,患者自身)からの電話連絡で始まります。主訴は何であり,いつから始まり経時的に増悪・不変・軽快しているのかを的確に聞き出し,どのような形で来院したらよいかまでを含めてすばやく判断して指示します。意識障害が高度で気道閉塞の危険がある場合から,救急車を依頼するまでもなく家族に連れてきてもらうことで十分な場合まであります。病態は緊急の生命維持処置を必要とする場合から,救急部で安静,経過観察で帰宅できる場合までさまざまです。多彩な緊急に起こった主訴を的確に判断して,必要な緊急処置を行いながら現症,既往歴を聞き出し,理学所見,緊急検査から診断を予測し,治療に対する反応から集中治療部などの高度治療施設に収容する必要があるか,専門診療科のconsultationをあおいで入院もしくは専門外来を経時的に受診することでよいか,帰宅させてもよいかを判断していきます。救急部を核として,病院のすべての専門分野の協力をあおいでこの一連の流れを迅速によどみなく進めることが必要です。救急部にあらゆる分野の専門家をそろえておき,救急部で診断から治療まで完結させることは事実上不可能,かつ非効率とわれわれは考えております。すべての専門診療科の協力を得て救急医療を行うことが必要であり,このために専門診療科の診療への参加を的確に進めるためには,救急部が正確に判断し,核となることが必要です。緊急を要すると患者が考えた訴えに対して適切に対処することが重要であり,心肺蘇生も緊急度のきわめて高いひとつの例にすぎません。このような救急部の運営(病院併設型救急部)は,高い専門性をもった医療を提供できる利点がある反面,その運営には各分野独自の事情を抱えている全診療科の協力が必要である困難を伴います。このような病院併設型救急部のひとつの診療実態を本書は示します。

東京医科歯科大学医学部附属病院救急部は,救急部の専任医師を中心として全診療科の協力のもとに救急部を運営し,都心での救急医療の一翼を担っております。本救急部で遭遇する代表的な症例を示し,その治療経過を具体的に述べることで代表的な主訴,病態,疾患に関してどのように対処し,どのように考えたらよいかを最新のevidenceに基づいて示すことが本書の目的です。そのために,主訴で症例提示を始め,救急部で救急隊から何をどのように聞き出したか,救急部に到着時の対応,理学所見,検査,想定される診断,さらに帰宅/専門診療科へのconsultation/入院の判断へと具体的に述べていきます。これらの判断の基準となった基本的な病態生理の解説(この部分はかなり詳述してあるものもあります),診断のポイント,鑑別診断,該当疾患の治療の原則へと進みます。最後に,若い読者を対象として,知識の整理のための設問を設けてあります。引用した文献は評価の高い雑誌からの最近の代表的な論文に限定し,日常的な疾患で新しい原著論文の乏しいものは,評価の高い雑誌からの最近の総説と代表的成書からにしぼってあります。治療は可能な限り, evidenceに基づいた論理的根拠のあるものでなければなりません。設問に対する回答で,なぜ文献を引用したかにもできるだけ言及するように努めましたので,若い読者の勉学の一助になることを期待しております。また,救急医学の臨床実習にまわってきた医学生諸君との討論材料となった救急集中治療医学領域の最近の話題の中から,興味深かったものをコラム欄に取りあげました。併せて救急集中治療医学の考察を深めるために活用いただきたいと考えております。

救急医学/医療は,新しい研修医制度のもとですべての医師に経験,習得が求められています。本書で取り上げた症例は,東京医科歯科大学附属病院救急部での研修医との症例検討会における症例提示,討議事項に文献的裏付けをして書き足したものであります。救急部はおかれている立地条件や地域の医療体系の中での期待される役割から,症例も偏ってきます。都心という立地条件のもとでの一国立大学附属病院救急部の診療実態とその考え方を提示することにより,救急医学/医療の発展,研修医をはじめとする若い医師の勉学にいささかでも貢献することが本書執筆の目的です。

2006年3月31日
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科救命救急医学分野教授
東京医科歯科大学医学部附属病院救急部部長
今井 孝祐