ADVANCE SERIES II-1 Tissue expansion:最近の進歩

ADVANCE SERIES II-1 Tissue expansion:最近の進歩

監修 東京大学教授  波利井清紀
編集 北海道大学名教授 大浦武彦
著者 北海道大学名教授 大浦武彦
ISBN 978-4-7719-0178-0
発行年 1996年
判型 A4
ページ数 202ページ
本体価格 14,500円(税抜き)
電子版 なし


要旨

Tissue expansion 法は非常にユニークな手術方法であり,種々の可能性も秘めているので,形成外科の分野のみならず各分野で利用価値のある手術方法である。

この方法は,人間の組織を物理的に徐々に拡大・伸展させるものであるが,アフリカ Chad の女性の口唇の拡大,ビルマの女性の頚長の風習,南米における頭蓋形態形成を圧迫によって行なう奇習などからヒントを得たといわれている。すなわちこれら の風習から,人間の身体の適応能力がいかに大きいかがうかがわれ,これを医療に応用したものである。もちろん,その風習は長年の経験による try and error で発達したものであろうが,これらの発達の歴史が分かれば,医学的にも興味があるところである。これら奇習以外でも生理的には肥満や妊娠,また腫瘍や水頭 症などの組織の拡張・拡大があり,それによる周辺の組織の変化も若干知られている。

私の expander との出会いは,1978年,米国の Prof. Grabb を訪問した時である。彼はそのおり,下肢に expander を入れた症例と,乳房に expander を入れた症例を示しながら,将来はマイクロサージャリーのつぎには必ずこの方法が形成外科手術の main technique になることを予言したのである。

この時は,大きく腫れあがったグロテスクな下肢,また異常に拡大させた乳房を見て,これが本当に将来役立つかと疑ったものである。また,これらの報告が その年の AAPRS において発表されたが,手術の結果もそれほどすばらしいものではなかったこと,また反対意見も多かったことから,それほど価値のあるものとも思われなかっ た。

しかし,その後改良がなされ,expander は炎症も少なくなり,また種々の用途が開発されて,形成外科手術の一方法として確実な地位を確立している。第1回国際 Tissue Expansion Symposium がサンフランシスコ,第2回がマルセイユ,第3回は札幌,第4回はサンパウロで開催されたが,いずれも活発な討論が行なわれ,その発展に驚かされている次 第である。とくに美容外科における乳房の拡大手術には必須の方法である。

Tissue expansion 法は,形成外科再建外科,美容外科はもとより,熱傷や一般外科にまで及んでおり,研究の分野においても組織の物理的拡大や刺激が,生理的にどのような変化 を起こすのか,とくに伸展・成長や血行などにどのような影響を及ぼすかなどは非常に興味のあるところである。

本書では tissue expander のそれぞれのエキスパートに各項について分かりやすく記述して頂いた。これを機会に,この方面のますますの発展を期待すると同時に,この本が形成外科医の みならず外科医の座右の書として役立つことを期待するものである。

1996年7月
北海道大学医学部名誉教授
大浦 武彦

I.Tissue expansion 法の歴史…大浦 武彦/1
A.Tissue expansion の歴史/3  
B.Expander の type/4  
C.伸展皮膚の変化/5  
D.適応/6

II.基  礎
1.病理組織学的変化…安田 幸雄/11
A.表皮/11  
B.真皮/12 
C.皮下組織/14  
D.筋,筋膜/15  
E.被膜/15  
F.骨・軟骨/16  
G.血管/17  
H.神経/17  
I.術中伸展による病理組織学的変化/18

2.生化学的変化…皆川 英彦/21
A.真皮/21 
B.Expander 周囲の被膜/23

3.生理学的変化…杉原 平樹/26
A.Tissue expansion と皮膚伸展性/26  
B.Tissue expansion と delay 効果/33

III.臨  床
4.Tissue expander のモデルと伸展面積…小林 一夫・藤井  徹/39
A.Expander の概念/39  
B.Expander のモデル/39  
C.伸展面積/40  
D.In vivo の実験/42

5.Expansion スケジュール
a.注入法のバリエーション…岩平 佳子・丸山  優/47

A.概念/48  
B.術前の評価/49  
C.手術手技/49  
D.症例/51  
E.考察/53

b.Continuous tissue expansion…黒住  望・上石  弘/55

A.方法/55  
B.結果/57  
C.考察/57

c.Intraoperative expansion 法…白壁 武博・出口 正巳/59

A.概念/59  
B.手術手技/59  
C.症例/61  
D.考察/61

6.モニター法
a.内圧測定法…竹内 正樹・野崎 幹弘/64

A.概念/64  
B.測定方法/64  
C.測定時期/64  
D.Expander 拡張時の内圧変化/65  
E.内圧変化と皮膚血流変化の関係/65  
F.モニター法としての内圧測定値の設定について/66

b.レーザードップラー血流計,サーモグラフィー…堀   茂/68

A.レーザードップラー血流計/68  
B.サーモグラフィー/71

7.Exterior valve 法…岩平 佳子・丸山  優/73
A.適応/73  
B.手術手技/74  
C.術後管理/75  
D.症例/76  
E.考察/76

8.部位
a.頭部および顔面…山田  敦/79

A.解剖/79  
B.術前の評価/80  
C.手術手技/80  
D.術後管理/80  
E.症例/81  
F.考察/82

b.頚部(顔面も含む)…秦  維郎・矢野 健二/85

A.解剖/85  
B.術前の評価/86  
C.手術手技/87  
D.術後管理/89  
E.症例/89  
F.考察/92

c.耳介…谷野隆三郎/94

A.完全型(耳垂残存型)小耳症における手術手技/94  
B.術後管理/97  
C.考察/97

d.鼻…坂村 律生/101

A.概念/102  
B.解剖/102  
C.手術手技/103  
D.症例/107  
E.考察/108

e.乳房

1) 乳房再建における tissue expansion 法…坂東 正士/110
A.症例と筆者の手術法の変遷/110  
B.expander 利用乳房再建の手術法/111  
C.手術の結果と再建乳房の柔らかさについて/112  
D.expander の利点と欠点,上記以外の利用法/112  
E.考察/113

2) 整容的豊胸術における tissue expansion 法…高柳  進/116
A.Becker expander 式人工乳房の構造/117  
B.手術手技/117  
C.術後管理/118  
D.症例/118  
E.考察/120

f.四肢…児島 忠雄・平川 正彦/124

A.概念/124  
B.解剖/124  
C.術前の評価/125  
D.手術手技/125  
E.術後管理/127  
F.症例/127  
G.考察/128

g.性器…中村 雄幸/132

A.症例/132  
B.考察/134

h.その他(眼窩,腹腔内など)…田井 良明・田辺 博子/138

A.空間の拡大/138  
B.空間の充填/140  
C.空間の再構成/140  
D.防御するための空間の確保/140

9.神経・血管の expansion…平瀬 雄一/143
A.症例/143  
B.考察/144

10.Expanded flap…竹内 正樹・野崎 幹弘/148
A.概念/148  
B.適応/148  
C.術前の評価/149  
D.手術手技/149  
E.症例/150  
F.考察/151

11.Expanded skin grafting…藤井  徹/155
A.概念/155  
B.手術手技/156  
C.症例/156  
D.考察/157

12.Expanded fasciocutaneous flap…石倉 直敬・塚田 貞夫/160
A.理論的背景/160  
B.適応/160  
C.術前の評価/161  
D.手術手技/161  
E.Expander 挿入術後および伸展中の管理/162  
F.Expanded f-c flap 挙上時の注意点/162  
G.症例/162

13.Expanded MVP flap…本間 賢一・杉原 平樹/164
A.動物実験/164  
B.解剖/167  
C.術前の評価/168  
D.手術手技/168  
E.術後管理/169  
F.症例/169  
G.考察/173

14.Dimethyl Sulfoxide (DMSO) の併用による tissue expansion 法…平瀬 雄一/176
A.DMSO の使用方法/176  
B.結果/176  
C.考察/177

15.合併症…川嶋 孝雄・波利井清紀/180
A.概念/180  
B.発生率/181  
C.発生時期/182  
D.経過/182  
E.予防と対策/182

索引…187

大浦 武彦