ケースブック臨床倫理
-救急・集中治療-

編集 氏家良人、前田正一
ISBN 978-4-7719-0495-8
発行年 2018年
判型 A5
ページ数 190ページ
本体価格 3,500円(税抜き)


第I章 終末期
1 自殺を図り終末期に至った症例の治療中止(石川雅巳)
2 心不全における経皮的人工心肺装置装着例の終末期と延命処置の中止(野々木宏)
3 長期透析患者の脳梗塞による終末期の透析継続の是非(貝沼関志)
4 交通外傷による重篤な脳障害、頸髄損傷への対応(橋本圭司)
5 小児の急性脳症による重篤な全脳浮腫症例における終末期の対応(植田育也)
第II章 DNAR
6 心肺停止で搬送された高齢者に対する心肺蘇生術施行について(則末泰博)
7 高齢者の肺炎症例におけるDNAR(澤村匡史)
8 POLSTやリビング・ウィルでDNARを希望している神経萎縮性側索硬化症患者のDNAR(丸藤 哲)
第III章 治療拒否、差し控え
9 幼児外傷性ショック症例における両親の宗教的理由による輸血拒否(木下順弘)
10 宗教的輸血拒否患者に対するインフォームド・コンセント(田村高志)
11 高齢者糖尿病患者の出血性ショックによる慢性腎不全の悪化(公文啓二)
12 精神疾患を有する若年者の自殺企図による心肺停止患者に対する集中治療の是非(堀 智志、木下浩作)
第IV章 診療関連死
13 医療事故後1週間目の死亡症例(美馬裕之)
14 気管チューブ自己抜去後の心肺停止(氏家良人)
15 異型輸血後の心肺停止(橋本圭司)
16 緩和医療施行による心肺停止(藤野裕士)
第V章 死亡診断書・死体検案書
17 自殺企図後、1ヶ月後に死亡した症例(則末泰博)
18 心肺停止で搬入され、蘇生できなかった症例(美馬裕之)
第VI章 臓器移植
19 脳死とされうる状態の患者のオプション提示(田村高志)
20 脳死判定後の移植拒否患者の治療中止(澤村匡史)

略 語
DNAR(do not attempt resuscitation)
POLST(physician orders for life-sustaining treatment)

私は、長い間、救急・集中治療に従事してきたが、法的また倫理的な判断を必要とする患者に遭遇することが少なからずあった。この判断をどのように行っていくべきなのか、医療者として重要な知識であるのだが、学生時代また、研修中にほとんど教えていただいた記憶がない。これは、私だけでなく、おそらく多くの医療者がそうであったと思う。学生時代に倫理学は学んだが、臨床倫理という概念が我が国に現れたのは30年くらい前のことであり、私たち臨床家が身近に感じるようになったのはこの10年程度のことであろう。
この本では、救急・集中治療領域における20の症例を呈示している。これらの症例はフィクションで、ほとんど私が作成した。したがって、実際にはありえない症例と思われるかもしれないが、「事実は、小説よりも奇なり」という言葉がある。実際の症例は、もっと複雑で悩ましいことが多い。そのことは、ある程度の期間、救急・集中治療に従事している医療者であれば理解していただけるであろう。
本書では、これらの症例に対して、どのように考えていくべきか、臨床の現場の医師に執筆していただいた。私を含め、臨床倫理学や法学の専門の研究者ではない。しかし、ほとんどの著者はこの数年から10年近く日本集中治療医学会の倫理委員会委員として、共同編者の前田正一先生をはじめとした我が国の実践的臨床倫理・法学研究の第一人者の方達から薫陶を受けてきた。本書の著者らは、臨床倫理学や法学の専門家の方達よりはこの面の知識は少ないことは明らかである。しかし、主治医として多くの患者や家族に接してきており臨床経験は豊富である。
著者のみなさんには、ご自分の経験、また、これまで学んだ臨床倫理および法律の知識を絡めて、それぞれの悩ましい症例に対するアプローチを提案していただいた。臨床倫理的アプローチの答えは必ずしも一つではなく、読者の皆さんであればどのようなアプローチが良いと思われるか、一緒に考えていただきたい。それが、実践的な臨床倫理の学習になることと思われる。本書は、そのためのケースブックである。

平成30年1月吉日
岡山大学名誉教授
氏家 良人