読んでおきたい麻酔科学論文
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8人工呼吸 気管挿管は主として吸入麻酔で用いられていたが、静脈麻酔で用いられる頻度が増加した。筋弛緩薬の使用も広まり、調節呼吸を行う頻度も増加した。合の麻酔死の頻度は1:820、エーテルを用いていない場合の麻酔死の頻度は1:2,500となっている。6麻酔法 麻酔法をみると吸入麻酔が44.4%で最も多く、チオペンタールを用いた静脈麻酔が22.1%、局所麻酔が13.2%、脊髄くも膜下麻酔(脊麻)が8.4%であった。仙骨硬膜外麻酔が1.3%を占めるものの、硬膜外麻酔というカテゴリーはなく、その使用頻度は高くなかったと考えられる。 脊麻における麻酔死は33名、その頻度は1:1,800であり、全身麻酔よりは麻酔死の頻度は低かった。脊麻で最もよく用いられていたのは、テトラカインであり、次いでプロカインであった。ジブカインの使用頻度は低下した。主として高比重液が用いられていた。7筋弛緩薬 筋弛緩薬の代表としてクラーレがあるが、筋弛緩薬を用いた場合、麻酔死の頻度は1:370と、クラーレを用いない場合の6倍も高かった。まだ、使用され始めたばかりのスキサメトニウムについては、評価が定まっていない。 筋弛緩薬投与による死亡の原因で最も多かったのは、低酸素血症、次いで心血管不全となっている。当時は明らかではなかったが、クラーレのヒスタミン遊離作用による低血圧が関係していた可能性がある。筋弛緩薬による使用法に関しては、過量投与、呼吸抑制と気道閉塞の介助失敗、フルストマック、ショックなども挙げられている。筋弛緩薬による死亡には、患者の全身状態や、麻酔科医の熟練度などは関係していなかったと判断されている。 当時、ポリオと麻酔死を比較している。当時のポリオによる死亡率は1.38/10万人であった。麻酔死の頻度を1:1,560と仮定すると、毎年5,128名が死亡することになり、その頻度は3.29/10万人となる。麻酔死は、public healthに関わる社会的問題であると述べている。 これは、“To Err is Human”で示されたような医療が関わる重大な問題と考えられる1)。 この大規模なサーベイは、麻酔の現状を把握するためのmass attackとして必要だと述べている。この発想は、米国麻酔科学会(ASA)が開始したclosed claims project2)や、Anesthesia Quality Institute(AQI)3,4)による調査にもつながっていく。この報告では筋弛緩薬投与時のリスクについて述べているが、その使用を否定はしていない。筋弛緩モニタリングや、クラーレによる低血圧の機序の研究などにもつながっていく5)。4麻酔死は社会的問題その後の研究の発展と将来

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