トッシュ(Macintosh)型喉頭鏡の発明は1943年のことである。人工心肺を用いた心臓手術は1953年にGibonが実施したのが最初であり、研究には開心術は含まれていない。当時、手術室で使用できる人工呼吸器はなかったと考えられる。 全死亡例について各施設で詳細に検討されたものがまとめ上げられている。麻酔が主たる原因と、麻酔が死亡に大きく関係したものが取り上げられている。コンピュータもない時代に60万症例近い症例を収集し、解析にかけた労力は膨大なものである。この研究の結果や考察には、その後の麻酔安全に関する調査や、対策の萌芽が数多く含まれている。1死亡原因の割合 599,548症例のうち、死亡症例数は7,977(1:75)であった。主たる死因が患者の疾患によるものと判断されたのは6,325例(1:95)、外科的過誤(診断、判断、手技)によるものは1,428例(1:4,200)、麻酔による死亡と判断されたものは224例(1:2,680)であった。麻酔が主たる原因ではなくても、重大な要因であったものを含めると384症例(1:1,560)であった。2麻酔担当者 5年間のトータルでみると、麻酔担当者で最も多いのは麻酔科レジデントで40.3%を占めていた。続いて看護師21.2%、外科医20.3%、麻酔科医10.4%、医学生4.0%となっていた。5年間のうちに外科症例は18%増加していた。麻酔担当者は、麻酔科医や麻酔科レジデントの担当割合が増加している。当時、麻酔科医が不足していた状況がうかがえる。 麻酔看護師は必要ないという意見もあったが、麻酔担当者として重要な役割を果たしていることがわかった。論文の中で“she”という用語が用いられており、現在とは異なり麻酔看護師といえば女性であったと推測される。3性 別 麻酔死は男性のほうが女性より比率が高かった。男性のほうが、心血管系疾患の罹患率が高いことや、家計を支えるため入院を遅らせること、女性には分娩も多く含まれていたことなどが関連するのではないかと推測している。4年 齢 10歳までの患者で麻酔死の比率が高かった。臓器発達の未熟性のほか、換気のトラブルが関係していたのだろうと考察している。5吸入麻酔薬 エーテルを主たる麻酔薬とした症例は5年のうちに増加し45%となった。他の麻酔薬との併用を含めると62%にもなる。エーテル麻酔が100年以上にわたって生き延びていたことがわかる。一方、比較的新しい麻酔薬であるシクロプロパンの使用率は12.5%にまで低下した。吸入麻酔薬としては、亜酸化窒素やビニルエーテル、エチレンなども用いられていた。エーテルを用いた場3第1章 麻酔の安全結 果
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