読んでおきたい麻酔科学論文
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第1章麻酔の安全Beecher HK, Todd DP.Ann Surg 1954;140:2︲34.麻酔に関連した死亡例を多施設から収集し,麻酔薬,筋弛緩薬,麻酔担当者などを含めて死亡率や原因について検討した麻酔に関連した死亡例を多施設から収集し,麻酔薬,筋弛緩薬,麻酔担当者などを含めて死亡率や原因について検討した大規模な先駆けとなった報告である.多施設後ろ向き観察研究(論文の中ではサーベイと位置づけている) 1846年10月16日にマサチューセッツ総合病院(MGH)でエーテルを用いた公開手術が行われた。その後、世界各国でエーテルやクロロホルム、亜酸化窒素を用いた全身麻酔が行われるようになった。しかし、1847年にはエーテル麻酔による死亡事故が報告され、その後、各国からも事故報告が出された。麻酔の恩恵と、麻酔のもつリスクのバランスが議論されるようになった。 論文の最初に述べられているように、外科と麻酔科が一体となって患者の治療を成功させるという考えが基盤になる。サーベイの目的は麻酔の現状について把握し、麻酔に関連する死亡とその原因を検討することにある。 Henry K. BeecherとDonald P. Toddによる本論文は1948年1月1日から1952年12月31日にかけて10の大学病院で実施された約60万症例における全死亡について、その原因を詳細に解析したものである。60万症例は米国全土で行われる麻酔症例数の2.5%に相当する。33ページに及ぶ論文には33の表が含まれている。ハーバード大学、コロンビア大学、ペンシルベニア大学、スタンフォード大学、ユタ大学、デューク大学、ミネソタ大学、バンデルビルト大学、ツーレーン大学、ジョージワシントン大学の9大学の10附属病院が調査対象施設となっている。各病院から外科医1名と、麻酔科医1名が担当者となり、外科手術による全死亡例について麻酔担当者、麻酔方法、麻酔薬、筋弛緩薬、原疾患、外科手術の過誤などについて詳細に原因を検討している。1年を3期に分けて各施設から報告を集めて検討している。コロンビア大学プレスビテリアン病院の麻酔科の研究担当者は、あのApgarスコアを提唱したVirginia Apgarである。 本研究が行われた時代背景についても知っておく必要がある。クラーレからd-ツボクラリンが生成されたのは1935年のことである。BeecherとToddが虫垂切除術にd-ツボクラリンを用いたのが臨床応用の最初といわれている。スキサメトニウムの臨床応用は1952年に始まっている。シクロプロパンの臨床応用は1933年であり、それより1年遅れてチオペンタールが導入されている。ハロタンは1957年により臨床応用されたので、この研究には含まれていない。マッキン2論文1A study of the deaths associated with anesthesia and surgery. Based on a study of 599,548 anesthesias in ten institutions 1948︲1952, inclusive.研究の背景・意義方 法時代背景

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