克誠堂編集部の関さんから麻酔科関連のこれだけは読んでおきたい論文を選び、それぞれの論文に解説を付けた書籍を編集してもらえないかという相談を受けた。まず、自分がその任に適任であるのかという疑問がよぎった。お引き受けはしたものの、綺羅星のごとくある論文から60編程度を選択することの困難にまず直面した。そこで、個人的なバイアスを少なくするために、麻酔科関連の論文でcitation indexが高いものを150編ほど選択した。次に、領域が限定されないように、麻酔科学の主な分野に、選択した論文を割り振っていった。それぞれの章に割り振った論文を、類似したテーマのものなどを整理しながら100編ほどの論文を選択した。次にそれらの論文を収集し、片端から目を通していった。論文の選択の基準として、現代の麻酔科学の基礎的分野や臨床において発展をしているテーマを扱っている論文を選択した。このあたりから、私のバイアスが入ってくる。私がこれまで読んで強い印象を受けた論文や、私がマサチューセッツ総合病院(MGH)留学中に接した麻酔科医の研究論文は比較的多く入ることになった。例えば、Zapolの研究グループによる体外式膜型人工肺(ECMO)や一酸化窒素(NO)吸入療法、大量オピオイド(モルヒネ)を用いた心臓麻酔の創始者であるLowensteinの論文などがある。Bigelowの1846年のエーテルを用いた公開麻酔についての論文なども含まれている。日本人の論文も含まれている。 取り上げた論文はすべてが原著論文というわけではなく、多くの優れた総説も含まれている。たとえ発表から数十年という時を経た論文であっても、その中にある斬新性や未来を見越した深い洞察力は今も輝いている。 選択した論文の解説はそれぞれの分野の一人者の先生方にお願いした。優れた論文を優れた麻酔科医が読み解くことにより、論文のもつ深い意義が見えてくる。新たに学び、夢を感じ、知的に楽しめる本になったと思っている。 論文のエッセンスは、読者諸氏が既に知っていることが多いかもしれない。しかし、その知見を得るまでの発想や道のり、そして将来への展望について知ることに、感激したり、興奮するのではないかと思っている。故きを温ねて新しきを知る(温故知新)を強く実感した次第である。 歴史を知らずして、未来は開けない。本書を契機として原著論文や、その中に示されるひらめきに触れ、さらに知見や研究の幅を広げる糧としていただければと願っている。2021年12月v■■■ 序文:まさに温故知新 ■■■稲田 英一
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