一歩進んだ麻酔管理:常識は常に真実か?
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[4] アスピリンについて少し復習しましょう!アスピリンは、シクロオキシゲナーゼ(cy-clooxygenase : COX)-1の不可逆的なアセチル化によって血小板凝集を抑制します。強力な血小板凝集作用を有するトロンボキサン(tromboxane : TXA)2を阻害します。血小板は脱核体であるため、血小板が置換されるまでの7─10日間は作用が持続します。巨核球もアスピリンによる影響を受けますが、12時間以内にCOX-1を再生できます。一方、COX-2の阻害はプロスタサイクリンの阻害によって抗血栓効果を減弱します。これをアスピリンジレンマといいましたね。[2] 日本のガイドライン[1] アスピリンと脊髄くも膜下麻酔[3] どのような場合には休薬が必要なので(Gogarten W, et al. Eur J Anaesthesiol 2010 ; 27 : 999─1015/Vela Vasquez RS, et al. Br J Anaesth 2015 ; 115 : 688─98)281F 周術期管理2010に発表されたガイドライン1)では、単剤で処方されている場合は、アスピリンの内服は脊髄くも膜下麻酔の禁忌とはされていませんでした。しかし、脊髄くも膜下麻酔における血腫は1/220,000症例とまれな合併症である一方、発生すると大きな傷跡を残してしまいます。近年、この合併症が増加傾向であるとされています2)。今まで、アスピリンの内服は脊髄くも膜下麻酔の施行に影響を及ぼさない、とされていましたが本当なのでしょうか?日本でも区域麻酔学会から抗凝固・抗血小板薬の日本版ガイドライン3)が出されています。このガイドラインでは、アスピリン内服中の脊髄くも膜下麻酔は禁忌でないとされています。ただし、リスク分類を行い、その分類に応じた休薬期間が必要です。高リスク群で7日、中リスク群ではブロック手技により症例ごとに決定します。高リスクとは、血小板低下や出血性素因を有する患者とされています。具体的には、血小板数が5万/μl未満での脊髄くも膜下麻酔は推奨されていません。また、出血傾向のエピソード、重度の肝機能障害、肝硬変、慢性腎臓病、重症の大動脈弁狭窄症などを有する患者は、高出血リスク群であることから出血素因として取り扱います。加えて、先天性または後天性の凝固異常かが疑われ、活性化部分トロンボプラスチン時間(activated par-tial thromboplastin time : APTT)やプロトロンビン時間国際標準化比(prothrombin time─international normalized ratio : PT─INR)などの凝固検査に異常値を認める場合には、高リスク群や中リスク群へのブロック手技を行わないことが推奨されています.一般的に低用量アスピリンとは75─325 mg/day、高用量アスピリンは500 mg以上のものを示し、その目的に応じて使用されますが、低用量は主にCOX-1を、高用量はCOX-2も阻害すると考えられています。しょうか?血栓・抗凝固アスピリン継続は安心・安全  〜あれれ、脊髄くも膜下麻酔をしても よかったのでは?〜84

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