Ⅲ章 腰痛・腰下肢痛を来す代表疾患 Deyoら1)は、腰痛患者のうち、磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging:MRI)検査で原因が指摘されるものは10─15%にすぎず、残りの約85%は原因が特定できない非特異的腰痛であるとした。この高名な論文の影響で、多くの腰痛が器質的病変を持たない心因性■痛であるかのような見解が一時流布した。しかし、そもそも腰痛がすべてMRI上の異常所見を伴うわけではなく、2015年の山口県腰痛studyでは、腰痛320症例中MRIで診断できた腰痛が21%、MRI以外の方法で診断できた器質的異常を伴う腰痛が57%で、心理・社会的要因による厳密な意味の非特異的腰痛(器質的異常を伴わない腰痛)は22%であった2)。MRIで診断できた腰痛には、圧迫骨折、椎間板ヘルニア、感染、脊柱管狭窄症が含まれた。MRI以外で診断できた腰痛には、筋膜性腰痛、椎間関節症、椎間板性腰痛、仙腸関節症が含まれた。これらは詳細な問診、理学的所見、診断的ブロックにより診断することができる3)。腰椎椎間関節症に起因する腰痛も、問診、理学所見、診断的椎間関節ブロックにより診断可能な腰痛である。 脊椎の支持機構は、椎体および椎間板(前方要素)と、脊柱管を挟んでその背側・左右両側に位置する椎間関節(後方要素)により保たれている(図1)。前方要素が主として荷重を受け止める緩衝材の役割を果たすのに対して、後方要素は主に前後屈や左右の回旋、側屈などの身体軸の運動を制御する 最近の見解では、非特異的腰痛には椎間関節性腰痛などが含まれる。 過激な体動や外傷による椎間関節の炎症や挫傷が、急性椎間関節症(いわゆる“ぎっくり腰”)を起こす。 高齢者では、椎間関節軟骨の摩耗や関節裂■の狭小化、骨棘形成などの関節症変化のうえに、なんらかの要因が加わり椎間関節性腰痛を起こす。 椎間関節症に特異的な他覚的検査や画像所見は乏しく、椎間関節ブロックの診断的価値が重視される。 椎間関節の知覚を支配する後枝内側枝ブロックの結果で診断される場合もある。116 はじめに 腰椎椎間関節の解剖腰椎椎間関節症6
元のページ ../index.html#1