一歩進んだ麻酔管理
~常識は常に真実か?~

一歩進んだ麻酔管理

編集 国沢卓之
ISBN 978-4-7719-0516-0
発行年 2019年
判型 A5
ページ数 310ページ
本体価格 6,500円(税抜き)
電子版 なし


A 術中管理(I):術後状態を意識した麻酔管理

§1 術中管理目標
1 術中低血圧(SBP<80mmHg、MAP<55mmHg)の累積時間が術後死亡率を上昇させる
➡〜1 分でもダメですか〜(国沢卓之)
2 血圧管理の目標は?
➡〜避けるべきは低血圧or高血圧? 評価は絶対or相対?〜(須田康裕、国沢卓之)
3 術中深鎮静(BIS<45)の累積時間が術後死亡率を上昇させる
➡〜ニワトリと卵ですね〜(国沢卓之)
4 POCD予防に鎮静は比較的深いほうがよい?
➡〜抗炎症作用の観点からも考える必要があるのですね〜(小原伸樹)
§2 麻酔薬・鎮静薬・拮抗薬
5 フルマゼニルの効果
➡〜えっ!! プロポフォールや吸入麻酔まで?〜(小原伸樹)
6 DEXと呼吸抑制
➡〜ほとんどないはずだったのに〜(菅原亜美、国沢卓之)
7 全身麻酔薬と麻薬の相乗作用
➡〜そこまで減らして大丈夫?〜(増井健一)
8 術中麻薬が多いと術後痛い
➡〜麻薬のフロントローディングは避けるべきですね〜(国沢卓之)
9 麻薬の耐性のでき方は効果によって違う
➡〜それならば患者に不利益が生じます〜(国沢卓之)
§3 鎮痛薬
10 レミフェンタニルは常に低血圧の犯人か?
➡〜“やっぱり”と“なるほど”です〜(高木真奈、国沢卓之)
§4 筋弛緩
11 頭部挙上5秒で抜管!!
➡〜エッ!? 危ないのですか?〜(岩崎 肇)
12 麻酔科医の経験は絶対か?
➡〜こんなにもー、まさかスガマデクスまでが……〜(川村大資、岩崎 肇)
13 まだ先があるとは
➡〜TOF 比>1.0? TOF 比先行回復?〜(岩崎 肇)
§5 脳波モニタリング
14 BISモニターは術中覚醒を予防しない?
➡〜そういう視点で論文を読む必要があるのですね〜(増井健一)
15 術後回診でなんともなければOK?
➡〜潜在性の記憶というものを考える必要があるのですね〜(萩平 哲)

B 術前管理

§1 診察・評価
16 術前に必須な検査とは
➡〜ルーチンはないのですか?〜(位田みつる)
17 術前評価や介入
➡〜だから大事なのですね〜(位田みつる)
18 プレハビリテーション?
➡〜リハビリテーションの誤植ではないのですね〜(位田みつる)
§2 内服薬・前投薬・飲水/55
19 β遮断薬
➡〜そんな歴史があったのですね〜(林 健太郎、国沢卓之)
20 ベンゾジアゼピンのルーチン投与
➡〜良い点ばかりと思っていました〜(萬 知子)
21 ERAS(R)≠術前経口補水
➡〜勘違いしてました〜(岩田千広、国沢卓之)
22 術前炭水化物負荷に死角あり?
➡〜ERAS(R)推奨だったのでは〜(篠原征史、国沢卓之)
23 ERAS(R)も見直し!!
➡〜エビデンスや常識も永遠ではないのですね〜(井上真澄、国沢卓之)

C 術中管理(II):基本的な管理法・手技

§1 輸液管理
24 GDTに意味はないのか?
➡〜周術期管理に期待されているのですね〜(吉村 学、国沢卓之)
25 すべてのHES製剤は出血量を増加させ、腎臓に悪影響を及ぼすのか?
➡〜分子量だけでなく置換度、C2/C6 比の認識も必要なのですね〜(木山秀哉)
26 HES製剤vs.アルブミン
➡〜そのような背景を考えるとよいのですね〜(木山秀哉)
§2 気道・換気
27 マスク換気ができることが筋弛緩薬投与開始の必須条件?
➡〜ガイドラインまでそうなったのですね〜(讃岐美智義)
28 肺保護換気
➡〜術中やるとすれば……〜(秋吉浩三郎)
29 抜管時の吸引
➡〜あれ? 皆同じでないのですね〜(讃岐美智義)
§3 手技中の感染予防
30 中心静脈穿刺の感染対策
➡〜CDCガイドラインの根拠が……〜(溝部俊樹)
§4 神経ブロック
31 区域麻酔施行時にマスクは必須か?
➡〜えっ!! 逆を支持する論文があるとは……〜(高橋桂哉)
32 坐骨神経麻痺
➡〜こんなブロックでも起きるのですね〜(飯田高史)
33 超音波は有用!!
➡〜もう一息〜(飯田高史)
§5 硬膜外麻酔
34 出血・感染がなければ、良いはず?
➡〜在院日数を延ばす可能性があるのですね〜(小野大輔、賀来隆治)
§6 脊髄くも膜下麻酔
35 投与量・投与速度・身長?
➡〜結局、麻酔域を決める因子はどれですか〜(賀来隆治)

D 術中管理(III):麻酔法の選択

§1 麻酔薬の選択
36 プロポフォールは環境に優しいか?
➡〜廃棄物や尿中物質も考えるのですね〜(佐藤暢一)
37 亜酸化窒素は常に悪か?
➡〜見直されている報告も多いのですね〜(萬 知子)
38 吸入麻酔薬は全部同じか?
➡〜そんな利点もあったのですね〜(植木隆介)
39 肥満患者に対して
➡〜それならば、選択したいです〜(植木隆介)
40 喉頭上デバイス
➡〜デスフルランの出番はあるか?〜(植木隆介)

E 術中管理(IV):各論

§1 脳神経手術
41 セボフルランとデスフルラン
➡〜まったく同じでないようです〜(林 浩伸)
42 MEP施行時は、吸入麻酔薬は使用不可か
➡〜意外と使えるデスフルラン!!〜(林 浩伸)
43 開頭手術は過換気で
➡〜ダブルパンチは危険です〜(和泉俊輔)
§2 心・血管手術
44 CVP は、輸液の指標にならない?
➡〜なるほど、そちら側を見るのですね〜(遠山裕樹)
45 脊髄虚血にナロキソンが万能か?
➡〜異常興奮が重要だったとは〜(和泉俊輔、垣花 学)
46 溶血にハプトグロビン
➡〜まさかのエビデンスが〜(水田幸恵、辛島裕士)
47 アプロチニンはどこへ
➡〜そういう理由で〜(遠山裕樹)
48 ステロイドの功罪
➡〜現時点では……〜(﨑村正太郎、辛島裕士)
49 BIS = 0 と100
➡〜これが切り離された回路なのですね〜(矢野喜一、国沢卓之)
§3 胸部外科手術/164
50 分離肺換気中のPEEP
➡〜酸素化改善に役立つのは?〜(讃岐美智義)
51 HPVを考慮してプロポフォールがスタンダード
➡〜低濃度なら吸入麻酔も大丈夫そうですね〜(廣井一正、賀来隆治)
§4 産科手術
52 輸液選択
➡〜いつ? 何を? どれくらい?〜(角 千里、中畑克俊)
53 ネオシネジンやノルアドレナリンは使用可能!?
➡〜上限撤廃されましたか?〜(角 千里、中畑克俊)
54 スリーピングベイビー
➡〜CDHの世界標準ではなかったのですね〜(角 千里、中畑克俊)
55 子宮移動に意味がない?
➡〜こんな結果もあるのですね〜(萩平 哲)
§5 小児手術
56 成人とは異なり、声門下が一番狭い?
➡〜えっ!! 違うのですか?〜(安濃英里、佐藤 慎)
57 麻酔と成長障害
➡〜今、分かっていることはここまでです〜(佐藤 慎)
58 患児に優しいマスク導入
➡〜ストレスが小さいわけではないのですね〜(大嶽浩司)
59 小児はカフなし気管チューブを使う?
➡〜決着しましたか?〜(大嶽浩司)
§6 がん手術
60 吸入麻酔vs.静脈麻酔
➡〜驚きました〜(吉村 学、国沢卓之、森本康裕)
61 局所麻酔の影響は?
➡〜きっと、よさそうですね〜(吉村 学、森本康裕)

F 周術期管理

§1 鎮痛
62 先行鎮痛から予防鎮痛へ
➡〜執刀時だけではないですね!!〜(小野寺勇人、国沢卓之)
63 先行鎮痛は過去の概念?
➡〜なるほど、両方あるわけですね〜(山谷修一、国沢卓之)
64 神経ブロックはいつやるの?
➡〜術後のほうが長時間効くはずですよね?〜(佐藤 慎、国沢卓之)
65 リバウンドペイン
➡〜そもそも術前は痛くないですが……〜(佐藤 慎、国沢卓之)
66 アセトアミノフェンやNSAIDs
➡〜定時投与が推奨されていたのですね〜(佐藤暢一)
67 デキサメタゾンがここで登場!!
➡〜鎮痛目的でも使用されるのですね〜(国沢卓之)
68 ケタミン、プレガバリン、ガバペンチン
➡〜いろいろあるのですね〜(工藤愛理、国沢卓之)
69 マルチモーダル全身麻酔(オピオイドフリー麻酔)
➡〜そこまで徹底するのですね〜(宮﨑世理、国沢卓之)
§2 PONV 予防
70 プロポフォールが好ましい?
➡〜絶対ではなかったのですね〜(長坂安子)
71 嘔気にはメトクロプラミド?
➡〜えっ!! 学会推奨は……〜(長坂安子)
§3 呼 吸
72 酸素マスク3 l/min 3 時間
➡〜何がダメで、ダメでない場合はなんでしょうか?〜(早水憲吾)
73 吸入酸素濃度の理想は?
➡〜SSIと肺障害を考える必要があるのですね〜(溝部俊樹)
74 嚥下機能回復
➡〜早く飲水できることに意味があるのですね〜(鈴木真也、国沢卓之)
§4 代謝・輸液・輸血
75 術中、ストレスホルモン放出抑制は、意味がないのか?
➡〜術後にも、いい影響があるのですね〜(宮澤知穂、国沢卓之)
76 輸液量の変遷
➡〜たっぷり→制限←→自由?〜(久良木 ルーテ彩来、国沢卓之)
77 血糖管理の変遷
➡〜なるほど、厳密が良いわけではなかったのですね〜(溝部俊樹)
78 周術期体温保持
➡〜外科系雑誌を眺めてみると〜(溝部俊樹)
79 古い輸血は危ない?
➡〜あっさりと逆の報告が〜(溝部俊樹)
§5 循環
80 心臓に良いのは?
➡〜プレコンのみならず、ポスコンもなのですね〜(呉 健太)
81 AKI 予防は尿量確保!!
➡〜予防目的に投与を推奨される薬物はないのですね〜(辛島裕士)
82 ランジオロールは良さも短時間?
➡〜投与終了後も良い影響があるなら素晴らしいですね〜(鷹架健一、国沢卓之)
§6 血栓・抗凝固
83 ヘパリンブリッジは有効か?
➡〜そもそも抗凝固薬と抗血小板薬がありますよね〜(杉浦孝広)
84 アスピリン継続は安心・安全
➡〜あれれ、脊髄くも膜下麻酔をしてもよかったのでは?〜(杉浦孝広)
85 NOAC・DOAC、さあ大変
➡〜穿刺・抜去・再開……たくさん覚えなくては〜(杉浦孝広)

限られたモニターしか利用できず、“何事もなく、無事に、手術室から退室させる”ことが重要な目標であった数十年前とは違い、手術終了直後に、手術室で覚醒させるのは、とても容易になりました。そのため私たち麻酔科医の目標は、患者の術後状態をよりよくすること(術後の痛みが少ない、吐き気が少ない、合併症が少ない、早期に飲食を開始できる、在院日数が少ないなど)に移行していることは明らかであります。実際の麻酔管理はレミフェンタニルやスガマデクスの登場により、誰でも簡単にバランス麻酔を施行することが可能となり、鎮痛薬・鎮静薬・筋弛緩薬投与量のどれもが過量投与でも過少投与でも覚醒時間への影響はほとんどなくなりました。“バランス麻酔を施行することが一歩進んだ麻酔管理”でしたが、次は“患者の回復強化につながるバランス麻酔を施行することが、さらに一歩進んだ麻酔管理”になると考えられます。そこで、今回は、患者予後に影響を及ぼす可能性のある項目を取り上げ、次世代の麻酔管理の方向性を提案させていただける書籍を企画いたしました。
本書では、これまでの周術期管理を見直し、臨床現場で即効性、または、将来性のある実践書を目指しています。内容としては、①多くの医師が当然と思っていることなのに逆のエビデンスもある内容、②以前から皆に認識されている内容に対して、新知見を示した内容、③知見は古いが知らない若い医師が多い内容、のいずれかを取り上げ、項立てさせていただきました。タイトルは抽象的にせず、何が留意点、または問題なのかを具体的に文章化させていただきました。項目内の構成は、可能なかぎり相反する結論の論文(論文化されていない場合は、逆の考え方)も併記し、読者の皆様に考え方を知っていただく(問題を提起する)内容を目指しました。紙面は参考論文のエッセンスとキーとなる結果の図表1─2枚のみを記載し、1項目を可能なかぎり簡潔にまとめ、最新の知見を素早く習得できるように執筆していただきました。そのため、細かい内容は割愛されていますので、深く掘り下げたい場合は、参考文献に当たっていただけると嬉しく存じます。
術中麻薬の使用量を例に挙げると、
《20年前に習った内容》
❶フェンタニルを投与すると覚醒遅延が生じるので、短い手術は1アンプルまで、抜管するためには、大きな手術でも2─3アンプルまで
《15年前の認識(薬物動態シミュレーション施行開始時)》
❷フェンタニルは分布容積が大きいため、執刀前に5アンプル投与しても短時間手術でも覚醒に影響はなく、執刀時に痛みを感じさせないので先行鎮痛として有効で、かつ、V2・V3コンパートメントに蓄積するので、効果部位濃度の低下が緩徐になり、疼痛が軽減する
《最近の見解》
❸─(1)フロントローディングは急性耐性などの影響で、術後痛を増強する可能性があり、麻薬単独の過度な先行鎮痛は避けたほうが無難
❸─(2)麻薬の耐性は、鎮痛に対するものよりも呼吸抑制に対するもののほうが生じやすいため、術中麻薬の使用量が多いと、術後死亡率を増やす可能性が指摘され始めている
と、上記のように、常識は非常識に変わり、新たな常識も、さらに非常識へ変わろうとしています。既成概念にとらわれず、常に臨床判断の基準を検討し、新しい知識とエビデンスの知見を得、また、その質と効果を検証される方が増えることを願っております。
本書の上梓にあたっては、当教室員のみならず、各領域の多くのエキスパートにもご快諾いただき、直接、執筆の労をとっていただけました。豪華執筆陣による玉稿もお楽しみいただけますと幸いでございます。また、本書籍項立ての一部は、公募させていただきました。採用の有無にかかわらず、この場をお借りして、アイディアを提供していただきました皆様には、深く感謝の意を表します。“もっと、こんなアイディアがあるよ”という方がいらっしゃいましたら、第2版の参考にさせていただきますので、ドシドシ、お知らせいただけますと幸いです。
最後に、本書が、皆様の臨床現場における実務の再考、かつ周術期管理方法の変更のきっかけとなれば幸甚に存じますし、ひいては、患者さんのアウトカムに良い影響を及ぼすことを祈念しつつ、出版に関わられた多くの皆様に感謝を申し上げ、編者の序を締めさせていただきます。
2019年4月7日
旭川医科大学麻酔・蘇生学講座 国沢 卓之