産科医のための無痛分娩講座

産科医のための無痛分娩講座

編集 天野 完
ISBN 978-4-7719-0506-1
発行年 2018年
判型 B5
ページ数 128ページ
本体価格 3,800円(税抜き)
電子版 あり
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第1章 無痛分娩の意義(天野 完)

第2章 無痛分娩の方法と変遷(天野 完)
【1】 無痛分娩の方法
【2】 無痛分娩の変遷

第3章 区域鎮痛法(藤田那恵)
【1】 産痛の伝達と区域鎮痛法
【2】 適応と禁忌
【3】 脊椎管の解剖
【4】 局所麻酔薬の薬理,作用機序,胎盤移行
【5】 添加オピオイドの薬理,作用機序

第4章 硬膜外鎮痛法
【1】 インフォームドコンセント
【2】 手技の実際(奥富俊之)
1 必要な物品・機器
2 必要なモニタリング
3 体位(坐位or 右/ 左側臥位)
4 穿刺部位(ヤコビー線)
5 消毒
6 Tuohy 針の把持,刺入,針の進め方,正中or 傍正中
7 硬膜外腔の確認(抵抗消失法,空気 or 生理食塩水)
8 カテーテル挿入,留置
9 吸引テスト
10 テストドース注入,局所麻酔薬の選択,アドレナリン添加の必要性
11 メインドースの投与
12 帝王切開移行時の対応
【3】 鎮痛効果の判定(藤田那恵)
1 区域鎮痛と鎮痛効果
2 鎮痛効果の評価方法
【4】 合併症,副作用と対応
1 血液が吸引される場合(細川幸希)
2 バックフローがありくも膜下腔への迷入が疑わしい場合(細川幸希)
3 鎮痛効果が得られないときの対応(細川幸希)
4 カテーテルトラブル(挿入困難,抜去困難,切断・遺残)(細川幸希)
5 低血圧(細川幸希)
6 硬膜穿刺後頭痛(PDPH)(細川幸希)
7 神経学的合併症(細川幸希)
8 局所麻酔薬中毒(大原玲子)
9 硬膜下血腫,硬膜外血腫(大原玲子)
10 高位鎮痛,全脊椎麻酔(大原玲子)
11 産婦の心肺蘇生法(大原玲子)

第5章 脊髄くも膜下硬膜外併用鎮痛法(CSEA)(奥富俊之)
【1】 手技
【2】 利点と問題点
【3】 CSEA において特に留意すべき点

第6章 傍頸管ブロック(PCB),陰部神経ブロック(PB)(天野 完)
A 傍頸管ブロック
【1】 手技
【2】 鎮痛効果
【3】 母体のリスク
【4】 胎児・新生児のリスク
【5】 新生児への影響
B 陰部神経ブロック
【1】 手技
【2】 リスクと問題点

第7章 硬膜外鎮痛法が分娩経過に及ぼす影響(天野 完)
【1】 選択的分娩誘発の是非
【2】 分娩第1期
【3】 分娩第2期
【4】 児頭回旋異常
【5】 発熱
【6】 掻痒
【7】 助産師の役割

第8章 硬膜外鎮痛法と胎児・新生児(天野 完)
【1】 胎児への影響
【2】 新生児への影響
【3】 母乳への影響

第9章 無痛分娩の安全対策(海野信也)
【1】 無痛分娩とそのリスク要因に関する現状認識
【2】 安全性確保のための基本的な考え方
【3】 設備・機器の整備
【4】 診療体制の整備
【5】 研修の充実

無痛分娩との関わりは1974年に北里大学病院にレジデントとして採用された時に始まった。当時の産婦人科は“バランス麻酔”により痛みを緩和しながら選択的分娩誘発を行う「計画無痛分娩」による分娩管理を行っていた。“バランス麻酔”は分娩進行に合わせて鎮静・鎮痛薬,麻薬,吸入麻酔薬,静脈麻酔薬を併用する全身投与法で,分娩は月~金曜に1日数例から十数例が計画された。陣痛発作時はメトキシフルランを自己吸入して痛みを緩和し,排臨・発露状態になると静脈麻酔により産婦は入眠し,児は吸引娩出術により娩出される。吸入麻酔を併用して会陰切開部縫合など産科処置を行い,処置終了後麻酔から半覚醒状態で児と接触することになる。産婦が主体的に分娩に取り組む余地はなく医師任せの管理分娩で,朦朧状態での母児対面の状況に違和感を覚え,麻酔科をローテートし研修後に硬膜外鎮痛法による無痛分娩を取り入れ始めた。当初は反対意見もみられたが1980年代中ごろから次第に“バランス麻酔”に代わって硬膜外鎮痛法による無痛分娩が主流となった。硬膜外鎮痛法は0.5%ブピバカインの間欠投与法から次第に低濃度ブピバカインを選択するようになって低濃度ロピバカインとフェンタニルを併用した持続投与法がスタンダードな方法となった。
北里大学病院では開院以来無痛分娩による分娩管理を行ってきたが,わが国では陣痛の痛みは母性の醸成に必要であり自然で生理的な営みである分娩への医療介入は極力避けるべきとの考えが根強いため無痛分娩は一般的ではなかった。しかしながら最近は無痛分娩希望例が増加しており2017年の日本産婦人科医会の調査では総分娩に占める無痛分娩の割合は6.1%で53%の例が一次施設で実施されている。全脊椎麻酔,局所麻酔薬中毒などきわめてまれとはいえ生じ得る重篤な合併症に対応するためには麻酔科医の関与が望ましいがわが国の医療体制では現実的ではない。産婦が望めば無痛分娩を提供できるような体制が望ましく,産科医が硬膜外鎮痛法による無痛分娩を安全に提供できるよう実際の手技,分娩管理上の留意点などについての解説書として本書を企画した。本書を臨床の現場で少しでも役立てていただければ幸いである。

2018年4月吉日

天野 完