オピオイド

オピオイド

監修 並木昭義・表 圭一
ISBN 4-7719-0293-3
発行年 2005年
判型 B5
ページ数 194ページ
本体価格 5,800円(税抜き)
電子版 なし


基礎編
1.オピオイドの分子薬理 植田弘師/3
はじめに 3
G蛋白質制御機構とオピオイド耐性形成 3
オピオイド受容体内在化機構 4
耐性形成機構における受容体内在化調節 4
MAPキナーゼとオピオイド受容体シグナル 5
トランスアクチベーションとオピオイド受容体シグナル 6
グリア細胞活性化とオピオイドシグナル 7
おわりに 8
2.オピオイドの分布と代謝 岸岡史郎/11
種々オピオイド鎮痛薬の特徴 11
■1 麻薬性鎮痛薬/11
■2 非麻薬性鎮痛薬/14

分布と代謝に影響を及ぼす因子 16
■1 血液脳関門/16
■2 年齢/17
■3 肝疾患/18
■4 腎疾患/18

3.オピオイドの鎮痛作用 南 雅文/20
はじめに 20
モルヒネの作用点となる受容体サブタイプと細胞内情報伝達 20
モルヒネの鎮痛作用機序 22
“痛み”による“負の情動反応”に対するモルヒネの効果 25
拮抗性鎮痛薬の鎮痛作用機序 28
おわりに 31
4.オピオイドの副作用および耐性・依存性 成田 年,芝崎真裕,鈴木 勉/33
はじめに 33
モルヒネの副作用とその発現機序 33
■1 呼吸抑制作用/34
■2 傾眠作用/35
■3 錯乱・幻覚作用/35
■4 嘔気・嘔吐(催吐)作用/35
■5 止瀉作用(便秘)/37
■6 縮瞳作用/37
■7 胆汁分泌抑制作用/37
■8 排尿障害/37 

モルヒネの鎮痛耐性形成機構 37
疼痛下におけるモルヒネの鎮痛耐性 42
モルヒネの身体依存形成機構 44
疼痛下におけるモルヒネ身体依存形成に対する修飾作用 46
モルヒネの精神依存形成機構 47
疼痛下におけるモルヒネ精神依存の抑制機構 49
おわりに 52
臨 床 編
1.オピオイドの臨床使用とその状況 表 圭一/57
はじめに 57
オピオイドの分類 57
オピオイドの使用状況 58
オピオイドの適応と禁忌 60
オピオイドの投与経路 61
オピオイドの今後 61
2.モルヒネ製剤とその特徴 佐伯 茂/63
はじめに 63
モルヒネ製剤の種類 63
■1 塩酸モルヒネ単剤の注射薬/63
■2 モルヒネと他の薬物との合剤/65
■3 モルヒネの内服薬/65
■4 塩酸モルヒネ坐剤/73

3.モルヒネ以外のオピオイド製剤とその特徴 太田孝一/75
強オピオイド製剤 75
■1 クエン酸フェンタニル/75
■2 経口腔粘膜吸収型フェンタニル/79
■3 塩酸オキシコドン/79

弱オピオイド製剤 82
■1 リン酸コデイン/82
■2 リン酸ジヒドロコデイン/83
■3 ペンタゾシン/83
■4 塩酸ペチジン/84

合成オピオイド製剤 85
■1 塩酸ブプレノルフィン/85
■2 酒石酸ブトルファノール/86

今後,臨床使用が期待される薬物 86
■1 塩酸トラマドール/87
■2 メサドン/88

4.急性痛とオピオイド
 A.術後痛とオピオイド 井上莊一郎/90
はじめに 90
術後痛の特徴 90
投与経路に基づくオピオイドによる術後鎮痛 93
■1 筋肉内投与,皮下投与/93
■2 静脈内投与/94
■3 硬膜外投与/97
■4 くも膜下投与/102

術後鎮痛におけるオピオイドの副作用,安全性 102
■1 呼吸抑制/102
■2 悪心・嘔吐/103

おわりに 103
 B.分娩痛とオピオイド 川真田樹人,高橋稔之/109
はじめに 109
分娩の痛み 109
分娩痛と薬物投与による鎮痛 110
全身投与 111
■1 フェンタニル/111
■2 塩酸モルヒネ/112
■3 塩酸ペチジン/112

くも膜下腔投与 113
硬膜外腔投与 113
局所麻酔薬とオピオイド併用の硬膜外投与 114
脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔(combined spinal-epidural anesthesia:CSEA) 114
■1 投与法の実際/114

最後に 115
 C.外傷痛とオピオイド 成松英智/117
外傷性疼痛 117
オピオイドによる外傷鎮痛 118
オピオイドが外傷診断に及ぼす影響 119
オピオイド鎮痛と全身管理 120
オピオイド投与の実際 120
■1 投与法/121
■2 病態別オピオイド鎮痛法と注意点/122

5.癌性疼痛とオピオイド 川股知之/126
WHO方式癌疼痛治療法 126
■1 癌疼痛治療の目標/127
■2 鎮痛薬投与法の基本原則/127

癌疼痛に対するわが国で臨床使用可能なオピオイド製剤とその使用法 129
■1 リン酸コデイン/129
■2 モルヒネ製剤/130
■3 フェンタニル製剤/136
■4 オキシコドン製剤/138

オピオイドローテーション 139
オピオイド抵抗性の痛み 140
服薬に関する患者教育 141
■1 痛み治療の重要性/141
■2 モルヒネに関する迷信/142
■3 オピオイドの使い方/143

6.慢性疼痛とオピオイド 井上隆弥,大瀬戸清茂/145
はじめに 145
慢性疼痛とは 146
オピオイドの適応疾患 147
診察および治療の方針 147
慢性疼痛に対するオピオイドの有効性 148
オピオイド療法の原則 149
オピオイドによる副作用:耐性,依存,乱用,嗜癖 150
使用するオピオイド鎮痛薬の種類 151
オピオイドの鎮痛機序および薬物動態 151
そのほかの副作用 153
今後期待される薬物 153
■1 トラマドール/153
■2 κオピオイド作動薬/153

最後に 154
7.小児とオピオイド 田中裕之/156
はじめに 156
オピオイドの種類と作用 156
オピオイドの投与法 157
オピオイド投与時の観察項目とモニター 157
副作用とその対策 158
PCA 161
■1 PCAの設定と持続投与/161
■2 投与経路/162
■3 症例提示/162
■4 小児における硬膜外鎮痛の問題点/164

Acute Pain Serviceの役割 165
おわりに 165
8.高齢者・基礎疾患を有する患者とオピオイド 服部政治,野口隆之/168
はじめに 168
年齢と痛みの関係 168
高齢者の薬物代謝と排泄 169
モルヒネ 170
■1 モルヒネの薬物動態/170
■2 モルヒネの臨床使用/170

オキシコドン 172
■1 オキシコドンの薬物動態/172
■2 オキシコドンの臨床使用/172

フェンタニル 172
■1 フェンタニルの薬物動態/172
■2 フェンタニルの臨床使用/173

オピオイドの選択 173
おわりに 174
索引

オピオイドは,術後痛や癌性疼痛に対する有効性がよく知られ,臨床において多用されている。麻酔科専門医はその使用にあたり,基本的知識を十分に身に付 け,それを基に臨床応用することが不可欠である。さらに,術後痛や癌性疼痛以外の種々の疼痛(分娩痛,外傷痛,慢性疼痛)に対するオピオイド鎮痛法のノウ ハウ,小児,高齢者,そしてオピオイド作用に影響を及ぼすような基礎疾患を有する患者に対するオピオイドの使用法などを熟知したうえで,オピオイドを処 方・投与することが重要である。この企画においては,麻酔科専門医レベルに必要不可欠なオピオイドに関する知識(薬理,臨床)を網羅する。本書により,麻 酔科医に必要なオピオイドの特徴を熟知してもらい,患者の日常診療に大いに役立ててもらうと同時に,専門医(プロとしての)知識のさらなるレベルアップを 図ることを趣旨とする。

本書は,大きく基礎編と臨床編の2編に分ける。基礎編の執筆者は疼痛,鎮痛の薬理学,薬学において,わが国をリードする先生方であり,内容が臨床医に理 解できるように解説する。臨床編の執筆者は,臨床の第一線で活躍している先生方であり,その知識と実践を基に解説する。

基礎編は4章から成る。

第1章はオピオイドの分子薬理である。執筆者の植田弘師先生(長崎大学分子薬理学)は,オピオイド作用におけるG蛋白質活性化やさまざまのキナーゼ活性化機構と,オピオイド耐性形成におけるそれら分子の役割について解説する。

第2章はオピオイドの分布と代謝である。岸岡史郎先生(和歌山県立医大薬理学)は,種々のオピオイドの特徴として5種類の麻薬性および3種類の非麻薬性 (拮抗性)鎮痛薬の体内動態,用量および作用持続時間についての比較,そして分布と代謝に影響を及ぼす因子として血液脳関門,年齢,肝疾患,腎疾患を挙げ て解説する。

第3章はオピオイドの鎮痛作用である。南雅文先生(北海道大学薬学科薬理学)は,モルヒネの鎮痛作用機序について,特に脊髄後角における痛覚情報伝達に 対する抑制作用機序に焦点を当て,その分子機構を解説する。さらに,モルヒネの不安・不快・恐怖などの“負の情動反応”に対する抑制作用について著者らの 研究成果を中心に紹介する。また,これまでの薬理学的手法では明確な鎮痛作用機序を知ることが困難であったブプレノルフィン,ペンタゾシン,ブトルファ ノールなどのいわゆる“拮抗性鎮痛薬”について,分子生物学的・分子薬理学的手法を駆使し,それら薬物の鎮痛作用メカニズムに言及する。

第4章はオピオイドの副作用および耐性・依存性である。成田年,芝崎真裕,鈴木勉先生(星薬科大学薬品毒性学)は,現在までに明らかとなっているオピオ イドの作用機序に加え,最近,著者らの研究室で明らかにしつつある新たなモルヒネの鎮痛作用発現機構,ならびにグリア細胞が関与すると想定される耐性およ び精神依存形成における分子機構について概説する。

臨床編は8章から成る。

第1章はオピオイドの臨床使用法とその状況である。表圭一先生(札幌医科大学麻酔科)は,オピオイドの歴史,オピオイドを生成由来による分類と固有活性 による分類に分けて説明する。また,わが国および海外におけるモルヒネおよびフェンタニルの消費量の推移を図に示し,そしてオピオイドの適応と禁忌,オピ オイドの投与経路について解説する。

第2章はモルヒネ製剤とその特徴である。佐伯茂先生(駿河台日本大学麻酔科)は,モルヒネ製剤には従来より使用可能であった注射薬,速効性の錠剤に加 え,1ml中のモルヒネ含有量が多い注射薬,各種除放性製剤,水溶性製剤など豊富な種類が臨床の場で使用可能となっており,これらの薬物を適切に,かつ有 効に使用できるようにモルヒネ製剤の特徴について解説する。

第3章はモルヒネ以外のオピオイド製剤とその特徴である。太田孝一先生(江別市立病院麻酔科)は,癌性疼痛管理のモルヒネ以外の強いオピオイドとして フェンタニル,オキシコドン,弱オピオイドとしてリン酸コデイン,リン酸ジヒドロコデイン,ペンタゾシン,ブプレノルフィンとさらに欧米で普及しているト ラマドール,メタゾンについて解説する。特に現在,臨床使用が可能な薬物については,その製剤の特徴と使用法および薬価について詳しく述べる。

第4章は急性痛とオピオイドであり,これは術後痛,分娩痛,外傷痛の3項目に分ける。

A.術後痛とオピオイド―井上莊一郎先生(自治医科大学麻酔科)は,術後痛の特徴,投与経路に基づくオピオイドによる術後鎮痛の特徴,特に各種の硬膜外 鎮痛法について詳細に説明する。また,術後鎮痛におけるオピオイドによる副作用と安全性の対策について述べる。

B.分娩痛とオピオイド―川真田樹人,高橋稔之先生(札幌医科大学麻酔科)は,分娩の痛みの特徴,分娩痛と薬物投与による鎮痛で,特にオピオイドの投与経路とその特徴,その中でくも膜下と硬膜外ブロック併用における投与法の実際について述べる。

C.外傷痛とオピオイド―成松英智先生(札幌医科大学救急集中治療部)は,外傷性疼痛の特徴,オピオイドの外傷診断に及ぼす影響,オピオイド鎮痛と全身管理,オピオイド投与の実際では,各種投与法および病態別オピオイド鎮痛法と注意点について述べる。

第5章は癌性疼痛とオピオイドである。川股知之先生(札幌医科大学麻酔科)は,WHO方式癌疼痛治療法,癌疼痛に対するわが国で臨床使用可能なオピオイ ド製剤とその使用法,その副作用,およびオピオイド抵抗性の痛み対策,服薬に関する患者教育について述べる。

第6章は慢性疼痛とオピオイドである。井上隆弥,大瀬戸清茂先生(NTT東日本関東病院ペインクリニック科)は,慢性疼痛の定義,慢性疼痛患者の診察お よび治療方針,慢性疼痛におけるオピオイドの有効性と適応疾患,オピオイド療法の原則について説明する。さらにオピオイドの鎮痛機序および薬物動態,そし てオピオイドの副作用についても述べる。

第7章は小児とオピオイドである。田中裕之先生(広島大学麻酔・疼痛治療科)は,小児の術後痛におけるオピオイドの種類と作用,投与法,副作用,オピオ イド投与時の観察項目とモニターについて解説する。特に術後急性痛に対する自己調節鎮痛(patient-controlled analgesia:PCA)に関して具体例を呈示しながら説明する。

第8章は高齢者・基礎疾患を有する患者とオピオイドである。服部政治,野口隆之先生(大分大学麻酔科)は,加齢による痛み閾値の変化,および生体の生理 学的変化,基礎疾患・癌患者での薬物動態に影響する因子についてまとめて示す。特に現在臨床で癌性疼痛に使用されるオピオイドが年齢や臓器障害によりどの ような影響を受けるのか,またそのためにオピオイドの投与量調節や投与経路をどのようにすべきかを概説する。

基礎編はかなりレベルが高く,一度読んでも理解し難いところもあるが,繰り返し読むことで理解できるようになり,しかも臨床において重要な知識,情報が 多くあることに気付くと思われる。臨床編は前半の3章においてオピオイドの製剤,使用法について全般的な解説がよくなされており,ここをよく読んでおくと 後半の章は理解しやすい。後半の5章の中では疾病および病態別における疼痛に対して適切なオピオイドの使用法および副作用対策など具体的に記載されてい る。本書は日常臨床で疼痛管理のプロに必要であると確信している。本書を是非手元に置いて,活用されることを願っている。

2005年7月
並木 昭義