形成外科手術手技シリーズ  乳房の形成外科

形成外科手術手技シリーズ  乳房の形成外科

編集 慶應義塾大学 藤野 豊美
ISBN
発行年 1999年
判型 B5
ページ数 286ページ
本体価格 14,500円(税抜き)
電子版 なし


I.乳房の解剖と形態/1
A.乳房再建に必要な解剖…佐藤達夫・村上弦/2
B.美術解剖学から見た乳房…中尾喜保/10
C.美容的見地から見た乳房の形態…渡辺純至/21

II.病理―良性および悪性腫瘍の病理―…廣田映五/27
A.良性病変/28
B.悪性腫瘍(癌腫)/35
C.悪性葉状腫瘍(malignant phyllodes tumor)/47
D.癌肉腫(carcinosarcoma)/48
E.非上皮性悪性腫瘍/48
F.乳癌の組織型別頻度/49
G.悪性度/49

III.対象疾患と手術術式/53
A.良性疾患/54
1.陥没乳頭の治療…吉村陽子/54

A.保存的治療/54
B.乳管温存術式/55
C.乳管切断術式/59
D.先天性要因以外の陥没乳頭に対する術式/59

2.女性化乳房の治療…清泉貴志/61

A.原因疾患/61
B.病因/62
C.診断/62
D.治療/62
E.症例/62

3.乳房埋入異物後遺症の治療…百束比古/64

A.豊胸(乳)術とその歴史/64
B.局所的後遺症/66
C.全身的後遺症/68
D.診察の方法と検査法/68
E.診断/69
F.治療/72

4.副乳の治療…今西宣晶/74

A.特徴と分類/75
B.症状/76
C.診断/76
D.病理/76
E.治療/77

5.乳輪乳頭の再建…原料孝雄/77

A.再建の必要条件,時期/78
B.自家組織による二次再建術/78
C.乳輪の再建/78
D.乳頭の再建/81

6.ポーランド症候群の乳房形成術…碓井良弘/83

A.手術法/84
B.症例/85
C.考察/88

7.乳房発育不全を伴う漏斗胸の治療…河村剛史/90

A.症例/91
B.考案/93

B.整容疾患/96
1.乳房増大術…武藤靖雄/96

A.適応と禁忌/96
B.インプラント/97
C.手術手技の問題点/101
D.合併症/104

2.乳房縮小術(reduction mammoplasty)…坂東正士/109

A.乳房肥大(macromastia,hypertrophy of breast,mammary hypertrophy)/109
B.乳房肥大の原因と分類/110
C.症状/112
D.手術の概略と適応/113
E.術前の準備/113
F.手術/113
G.手術後の注意と合併症/121
H.結果/122
I.今後の展望/122

3.下垂乳房の形成外科…白壁征夫/124

A.下垂乳房/124
B.術前計画/124
C.手術手技/125

4.精神科医から見た乳房増大手術と醜形恐怖…宮岡等/132

A.乳房増大術と患者の心理的特徴/132
B.美容形成外科手術と醜形恐怖/133
C.醜形恐怖について/133

C.悪性疾患/138
§1.一次的再建/138
1.乳頭温存非定型的乳癌根治手術と同時再建(広背筋)…貴島政邑/138

A.本術式の理論的根拠/139
B.対象とする病期と病巣の性状/140
C.患者の選択/140
D.術式と手技/141
E.術後経過観察の方法/145
F.手術の結果および考察/145

2.非定型的乳房切除術と即時再建…山本浩/148

A.乳房再建の目的/149
B.対象および方法/149
C.治療成績/151
D.再建手術手技/153
E.考案/157

3.乳房保存療法と再建…雨宮厚・畑山純/159

A.患者選択基準/159
B.切除範囲および麻酔/160
C.腋窩郭清の意義と適応/161
D.術後照射の必要性/161
E.温存手術の実際:美容的観点から/161
F.美容の面から見た評価:著者らの経験/172
G.Poor resultに対する二次的再建/174

§2.二次的再建/177
1.広背筋皮弁と腹直筋皮弁による乳房再建…井上健夫・原料孝雄/177

A.再建手術の適応/177
B.皮弁の選択/177
C.再建の目標/178
D.広背筋皮弁による再建/178
E.腹直筋皮弁による再建/179
F.広範切除術が施行されている症例の再建/181
G.症例紹介/183

2.広背筋皮弁(プロテーゼを含む)による乳房再建…酒井成身/184

A.広背筋皮弁の解剖と手技的関連/185
B.乳房再建における広背筋皮弁の利点,欠点と適応/186
C.広背筋皮弁による乳房再建術の手術手技/187
D.術後の管理/195 E.一次的再建か二次的再建か/195

3.腹直筋皮弁による乳房再建…高柳進/197

A.手術適応/198
B.皮弁のデザイン/198
C.術前の準備/199
D.手術手技/200
E.両側腹直筋を用いる腹直筋皮弁/206
F.拡大腹直筋皮弁/207
G.術後の管理/209

4.拡大筋皮弁による乳房再建…中嶋英雄/210

A.乳房再建の目標/210
B.プランニング,術式の選択/211
C.拡大広背筋皮弁による乳房再建/212
D.肩甲筋膜付拡大広背筋皮弁による乳房再建/215
E.拡大広背筋皮弁+TRAM flap/217
F.分割二島肩甲皮弁+TRAM flap/218

5.大殿筋筋皮弁による乳房再建…福積聡・藤野豊美/222

A.大殿筋皮弁の特徴/222
B.大殿筋皮弁の解剖/223
C.手術方法/223
D.症例/227

6.遊離腹直筋皮弁による乳房再建…山田敦/231

A.適応/232
B.術前の作図/232
C.縫合血管の選択/233
D.胸壁瘢痕の処理/233
E.皮弁挙上/234
F.皮弁移行/235
G.術後処理/238
H.利点・欠点/238 

IV.乳癌術後のquality of life/241
A.乳癌術後のself body image…清泉貴志・藤野豊美/242
B.患者からみた乳房再建の意義…金丸仁/245

A.アンケート調査/245
B.考察/251 C.乳房再建が患者に与える影響…染矢富士子/254

A.ROM(range of motion,可動域)について/254
B.QOL(quality of life)について/255
C.乳癌術後のリハビリテーション…久保完治/259

A.総論的事項/259
B.精神面のリハビリテーション/261
C.身体面のリハビリテーション/262

乳房再建の変遷…藤野豊美/265

A.歴史/265
B.皮弁の発達と分類/265
C.乳房再建に対する概念の変遷/266

索引/269

著者が乳房再建に興味を持ったのは,1965年から開始したマイクロサージャリーの実験的研究のおり,たまたま下腹部の乳腺を含む複合皮弁を前頸部に移 植した雑種犬が妊娠し,その移植乳腺から仔犬に授乳させることが出来たことを報告したところ,1967(昭和43)年12月28日に当時の乳腺外科の権威 であった群馬大学の藤森正雄教授に「乳房の手術」というテーマの座談会に呼ばれたからである。

座談会では,まず乳癌については,根治的乳房切断術から始まり,拡大根治手術,外科的内分泌療法が話題になったが,非定型的根治乳癌手術については話題 にならなかった。ついで乳腺症。最後には乳房の形成外科というテーマで討議された。藤森教授からは,先天性奇形と術後の瘢痕醜形についての質問があった。 先天性では,多乳房症,多乳頭症,女性化乳房,陥没乳頭,乳房形成不全(低形成,非対称を含む)について答えている。このとき,犬での自家移植のつぎに同 種移植を夢見ていると話したら,藤森教授は「母親の残った乳腺組織を娘の欠損部に植えたらどうかな(笑い)」と応答されたことは,今でも強く印象に残って いる。乳癌術後では,プロテーゼ,注入法に件うアジュバント病の話が出たが,再建方法については皆無であった。そして,最後に藤森教授は「先天性または後 天的の醜形や奇形の場合にも,今後は現在より進歩した手術をしなければならない。とくに正しい意味の乳房形成術は,日本では欧米に比べて低調ですから,今 後天いに発展させる任務があるのではないかと思います」と結ばれた。

あれから四半世紀が経過した今日,ここに「乳房の形成外科」の本を上梓することになった。本書は,解剖,病理に始まり,良性・悪性疾患については,おの おのの手術術式を,また乳癌術後のquality of lifeにまでも及ぶ広範囲な内容であるが,おのおのその道の第一線で活躍されている権威の先生方にご執筆を頂いた。内容の程度については,あの座談会当 時とは比較できないほど高度であり,最先端でありながら,かつ実用的であると思う。乳房の形成外科に携われる先生方には必ずお役に立てるものと思ってい る。この立場から,本書は,藤森教授のご期待にもお答えできたものと信じているが,ご存命なら,はたして今度はどんな笑い声が頂けるのだろうか,と思いを はせる一方,今日はアメリカでは独立記念日ではないかと,はたと気が付いた。

慶應義塾大学形成外科学教授室にて
1991年7月4日記す
藤野豊美