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術後痛 改訂第2版
改訂第2版序
術後痛は患者が経験する痛みの中でも,最大の急性痛の一つであるにもかかわらず,最近まで,術後痛への対策にはあまり関心 が得られていなかった。これは,痛みに関しては我慢するのが当然であるという古来からの日本人の姿勢でもあり,この観念が医療のベースにも存在していたた めであろう。近年,痛みはヒトの人生を狂わせるだけでなく,生活の質にも大いに影響することが認識されてきて,痛みに関する社会的関心度も大きく膨らんで きている。 術後痛は単なる急性痛としてみなされる痛みだけではなく,遷延した術後痛の概念も構築され,難治性慢性痛として,その後の痛みに悩まされる原因にもなる ことが解明されてきた。このような背景にあって,術後痛対策が図られるようになってきた。成書「術後痛」が発刊されたのは,13年以上前のことである。そ の後,術後痛研究会が組織され,術後痛に関する学会発表や論文報告が盛んになされ,術後痛対策に対して一定の見解を得るにいたった。術後痛研究会において も,術後痛対策に関するガイドラインが作成され,本研究会も役目を果たして解散された。 術後痛に関する情報やその対策について手術患者に対して説明されて同意が得られるようになって以来,患者が手術を受けることへの恐怖感や不安感も軽減さ れてきた。その結果,患者の早期受診,早期手術がやりやすくなり,医療費の削減にも少なからず,貢献できているものと思う。また,それに加えて,術後痛の 軽減によって,術後早期に患者に対して,リハビリテーションが開始でき,呼吸・循環器系への安定化も図れることによって,術後の回復が促進され,早期退院 が可能になってきている。このことも,医療費の削減に大きく寄与しているものと確信している。 今回,この13年間の術後痛対策の進展のみならず,術後痛の解明をも含めた集大成として改訂第2版が発刊されることになり,誠に時機を得た企画であると感じている。著者の方々は本書の意義を理解された術後痛に関するそれぞれの分野の専門家である。 本書によって,手術患者の苦しみが少しでも軽減できれば幸いである。 最後に,本書の刊行にあたり,多大なご協力を戴いた克誠堂出版(株)編集部の土田明氏,関貴子氏,同社社長今井良氏に厚く御礼申し上げる。 術後痛の管理は,麻酔科医に課せられた大切なテーマである。 第39回日本麻酔学会総会の学術講演の特別講演として,急性痛のメカニズムを「Spinal route of analgesia」として,前世界疼痛学会会長Michael J. Cousinsシドニー大学麻酔科教授に,さらに「急性痛の激痛変化への過程」と題して,滋賀医科大学第1生理の横田敏勝教授に教育講演をお願いした。 この「術後痛」のシンポジウムは,これら一環のシリーズの「結び」として,花岡一雄教授・百瀬 隆医長の司会で行われた。硬膜外鎮痛(山室誠科長), ディスポーザブル注入器による硬膜外鎮痛(宮崎東洋教授),PCA(光畑裕正講師),特殊状態の鎮痛:小児(堀本 洋医長)・ICU(行岡秀和助教授)と 麻酔科医の発表に続いて,さらに基礎から岐阜大学薬理学の野崎正勝助教授(opioids),和歌山県立医科大学仙波恵美子教授(c-fos,c-jun などの細胞性癌遺伝子との関係)のお二人にお願いした。これらを花岡教授,百瀬医長のお骨折りによって,論文としてまとめたものが本書である。 術後痛のコントロールについては,臨床上の実感を文中に山室科長が述べているように,克苦して切り開いたと思った方法が時には手ひどい批判に合う。また こんな方法がと思う方法で驚くほどの感謝に接したりする。しかし,最近の急性痛に対する科学的解析と対応方法は急速に結実へと進んでいる。術後痛は外科医 と病棟看護婦によって管理される解き難いクイズと思ったりしていると,思わぬ進歩の前にわれわれ麻酔科医がほぞをかむ「苦いテーマ」のような気がしてなら ない。 本書が花岡教授,百瀬医長の御努力によって著作物となったことを慶ぶとともに,Cousins教授,横田教授の成書とともに利用頂けることを望んで止まない。 1993年 皐月 医療技術の発展とともに病変部にのみ目が注がれて,患者が置いてきぼりになることも珍らしくはない。近代医療は患者の気持を重視しなくてはならない。いわゆる全人的医療を行う必要がある。 術後痛は,人間が一生のうち経験する「痛み」のうち最も痛いものの一つである。ひと昔前までは,手術は「痛いもの」とか「痛みを感じるのは生きている証 拠」などと言われ,患者も「痛い」と訴えるのは恥だと思っていた面が少なからずあった。このことは患者ももちろん医療サイドも「術後痛」を単なる治癒過程 としかとらえていなかった。 第39回日本麻酔学会総会会長,檀健二郎教授はかなり以前から術後痛には関心を寄せておられ,主管された総会シンポジウムで取り上げられた。予想に違わ ず,多くの会員が参加し,活発な討論でシンポジウムも盛り上がった。各シンポジストの発表内容も素晴らしく,活字として是非残しておきたいと思い,檀会長 に監修をお願いした。各シンポジストには発表テーマを中心にまとめて頂いた。内容的には,術後痛の成因を遺伝子レベルからマクロまでについて説明し,術後 痛への対処法としては,硬膜外鎮痛法,ディスポーザブル微量持続注入器による鎮痛法,patient-controlled analgesiaなどについて詳細に説明して頂いた。また,今まであまり関心が寄せられていなかった小児の術後痛やICU患者の痛みについてもまとめて 頂いた。それに加えて,最も一般的に術後鎮痛薬として使用されているオピオイド鎮痛薬の基礎知識を余すことなく説明して頂いた。 本書が,今後の手術患者の術後痛への苦しみを救うための指針として少しでもお役に立てれば幸いである。 最後に,本書の刊行にあたり,多大な御協力を頂いた克誠堂出版(株)編集部の古賀教子氏,同社社長今井 彰氏に厚く御礼申し上げる。 1993年 6月吉日
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